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2025.05.11

「ベイジルタウンの女神」を見る

ケムリ研究室no.4「ベイジルタウンの女神」
作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 緒川たまき/古田新太/水野美紀/山内圭哉
    坂東龍汰/藤間爽子/小園茉奈/後東ようこ
    斉藤悠/依田朋子/中上サツキ/秋元龍太朗
    尾方宣久/菅原永二/植本純米
    温水洋一/犬山イヌコ/高田聖子
観劇日 2025年5月10日(土曜日)午後0時30分開演
劇場 世田谷パブリックシアター
料金 13800円
上演時間 3時間40分(15分の休憩あり)

 本当に久々に観劇できた。嬉しい。
 そして、久々の観劇が「ベイジルタウンの女神」で本当に良かったと思う。

 ロビーではパンフレットの他グッズが売られ、アクリルスタンプのガチャガチャがもの凄く気になったけれど、次々チャレンジしちゃいそうだったので自粛した。

 ネタバレありの感想は以下に。

 Cubeの公式Webサイト内、 「ベイジルタウンの女神」のページはこちら。

 「ベイジルタウンの女神」はコロナ禍まっただ中の2020年に初演されている。その再演だ。
 私は初演のときはチケットを確保できず、見ていない。多分、あの頃は客席数も減らして一席おきに販売されていたように思う。余計に、チケットが取りにくかった訳だ。
 今回、何人かキャストが変更されての上演だったようだ。

 見終わってみると、「憂鬱な気分を吹き飛ばそう」という気概に溢れた舞台だったなと思う。
 とにかくエンターテイメントに徹してとにかく観客を楽しまそう、みたいな覚悟を感じる。覚悟を通り越して悲壮感すら漂っているかも知れない。
 でも、やっぱりコメディだし、エンターテイメントである。それが格好良い。

 5月6日初日の予定が、主演の緒川たまきの体調不良で9日の夜公演で幕を開けた2日目である。
 緒川たまきが登場して、「あー、良かった」と思う。体調不良を感じさせない「いつもながら」の緒川たまきでほっとする。同時に、この根性は凄すぎると思う。
 ケラリーノ・サンドロヴィッチの芝居らしく、書き割りっぽい背景や動く壁のセット、役者紹介で特に強調される映像の使われ方、チラシにもアクリルスタンプにも使われているイラストそのままの雰囲気で、たまに、役者さん達が自分の顔の前にスクリーンや紙を掲げ、その紙にイラストの映像を映して台詞をしゃべったりしている。
 実験的、と言っていいのだろうか。
 とにかく楽しい。

 緒川たまき演じる不動産会社っぽい会社の女社長マーガレットが、高田聖子演じる元自分のメイドであった女性が経営する会社に乗り込み、土地を売って欲しいと商談を持ちかけるところから話が始まる。
 かみ合わない会話が交わされた結果、何を思ったか、元メイドの女性はマーガレットに「ベイ汁タウンで名乗りもせずお金も使わず1ヶ月暮らせたら所望の土地を譲る。もしそれができなかったら自分がマーガレットが持つ隣接した土地を譲り受ける」という賭けを持ちかける。
 マーガレットはあっさりその賭けに乗り、この物語が動き始める。

 何と言うか「悪気の全くない空気を読まないお嬢様」は緒川たまきが得意とする造形の一つだと思う。
 そしてもちろん、見事すぎるほど見事に、何なら彼女自身がこういう人なんじゃないかと思うくらいにハマっている。流石である。
 そして彼女の奮闘を、ベイジルタウンの住人を演じる役者陣が舞台の上でも舞台としても見事に支えきり、多分マーガレットの考え方とか正確とかは変わらないのだけれど、でも、「ベイジルタウンを乞食が安心して暮らせる町に作り替えたい」と言い出すくらいには変えて行く。

 その変わった後の彼女の目標が「乞食が安心して暮らせる町」であるところに違和感はもちろんありまくりだけど、しかし、超有名人が家に遊びに来たと全く悪気なくほぼほぼ事実を事実として語っている彼女には、多分、そこが到達点にならざるを得なかったのだろうなという気もする。
 この辺りが「ベイジルタウンの女神」という舞台を理解したり評価したりするときのポイントになるのではないかと思う。
 評価というか、好き嫌いが分かれ道、という方が正しいかも知れない。

 もちろんマーガレットの婚約者は悪人で彼女に生命保険をかけてベイジルタウンで死んじゃうことを期待しているし、ベイジルタウンで知り合ったカップルの女の子の母親は「乞食と結婚したら乞食になる」と交際にも反対している。メイドであった女性との思い出のあれこれをマーガレットは思い出して二人は和解できたし、死んでしまったマーガレット付の執事は天国から舞い戻ってきてお嬢様をお守りする。
 マーガレットの婚約者はベイジルタウンの者どものに見事に謀られてテレビの前で己の罪を堂々と告白する。
 大団円である。

 大団円なのか? 本当に大団円と言っていいのか? と首を捻りたくもなるけれど、少しの違和感は横に置いておいて、悪者は退治され、善人が世に憚る、ハッピーエンドのいい芝居だと思う。
 いや、考えた方がいいことが絶対にあるのだけれど。

 スキンヘッドではない山内圭哉と植本純米を見るのは久しぶりな気がする。
 ひげのない山内圭哉も久しぶりかも知れない。髪があって髭のある植本純米に至っては、前半の半分くらいまで私は誰だか分かっていなかった。役者紹介を見た後でも自信がなくて、「どこにいるんだろう?」と思ってしまったくらいだ。

 最前列だったので、役者さん達の表情がよく見えた。
 やはり舞台に近いというのは嬉しいし楽しい。
 最前列といえば、目の前に役者さんの声を出すスピーカーがあって、見始めた頃は、しゃべっている人の位置と声が聞こえてくる方向の位置がずれていて、かなり気持ち悪かった。それでも休憩に入る前の頃には全く気にしなくなっていたのだから、我ながら妙なところで順応性が高い。

 むしろ気になっていたのはマイクの方で、ふわふわのマイクのカバーや耳にかけているイヤホンマイクなどが見当たらなくなっていて、一人一つずつ袋が用意されていて、チェックをしたり、できるようになっている。
 その頭の後ろに回している透明チューブがどうにも病院のようい思えてきて変な感じだった。

 何はともあれ、見て良かった。
 女たちはたくましいし、色々考えているし、生き汚い。(もちろん褒めている。)
 もしかしたら、そういう女の強さを見せる芝居だったのかも知れない。
 楽しかった。

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コメント

 みずえ様、コメントありがとうございます。
 そして、温かい励ましのお言葉をありがとうございます。

 ベイジルタウンの女神、ほんっとうに楽しかったです。

 最近、割と髪のある山内さんを舞台で拝見している印象です。
 そして、植本さんは髪とお髭で、最初は誰なのか全く分かりませんでした。出演されていることは知っていたのに「声が似ている人がいるなぁ」と思っていたくらいです。

 観劇できるよう精進して参りますので、またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2025.05.12 23:25

姫林檎様

久し振りの観劇記ですね!
良かったです。
さぞ堪能されたことでしょう。

私はこの公演、2020年版を観ました。
コロナ禍で、観劇に飢えていて、貪るように観たのを憶えています。
憂鬱な気分を吹き飛ばす気概に溢れた、本当に面白い舞台でした。

緒川たまきさん、ちょっとトボけていて、それでいて妖艶な役を演らせたら右に出るものはいない役者さんですね。
私は彼女の声も大好きです。
もっといろんな作品に出て欲しい。
そして配役を見たら、2020版とは結構違いますね。
仲村トオル⇒古田新太
吉岡里帆⇒藤間爽子
松下洸平⇒坂東龍汰
といった感じにチェンジしているんですね。
山内圭哉さんはそのままか……この人は出るだけで、もう面白い!

またすぐに次の公演が観られますように。

お身体にはお気をつけてお過ごしくださいませ。

投稿: みずえ | 2025.05.12 10:11

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