「花よりタンゴ」を見る
こまつ座第158回公演「花よりタンゴ」
作 井上ひさし
演出 栗山民也
出演 高橋克実/朝海ひかる/南沢奈央
大原櫻子/平体まひろ/尾上寛之
枝元萌/朴勝哲/大田真喜乃
観劇日 2026年5月30日(土曜日)午後1時開演
劇場 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
上演時間 2時間25分(休憩15分)
料金 12000円
ロビーではパンフレットやリピーターチケットが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
「花よりタンゴ」というこの舞台は見たことがないなぁと思って抽選予約に申し込んだ、よくよくフライヤーを見てみたら22年ぶりの上演と記載があった。それは見ていない筈である。仮に見ていたとしても忘れ果てている自信がある。
井上ひさしには、三部作構成を取っている作品がよくある(ように思われ)、同じチラシによるとこの「花よりタンゴ」は昭和十年代〜二十年代の激動期を懸命に生きた庶民の姿を描いた「昭和庶民伝三部作」である「きらめく星座」「闇に咲く花」「雪やこんこん」の3本の、プラス1という位置づけらしい。
庶民と言っても、この「花よりタンゴ」の中央に陣取るのは、元男爵令嬢の四人姉妹である。
この姉妹は、銀座のど真ん中でダンスホールを経営しているが、その経営が年々傾き、家賃の滞納も続き、今や風前の灯火という状態だ。
何か家賃と買取の話が混ざっていたような気がしてきた。混乱する。
とにかく、四姉妹がこのダンスホールを続けるためにはお金が必要なのだ。
ここで、何故にダンスホール? もっと地道かつ堅実そうな商売を選べなかったのか? と思ったりはする。どうしてそんな流行に左右されそうな商売を選んだのか。両親がそういう浮世離れしたタイプだったのか。疑問だ。
長女がダンスを踊れることから、その長所を活かし、「元男爵令嬢」という箔と教養を活かしてダンスの相手を務め、差別化しようという発想になったのではないかと推測する。
で、あっという間に経営難だ。
姉妹が暮らしていた屋敷に勤めていた高橋克実演じる金太郎が「ここを買い取って(あるいは新しい借主となって)米兵相手のスーベニールショップを開くんだ」と登場したり、枝元萌演じるダンスホールに闇タバコを卸している佐々木のおばさんがやってきたり、尾上寛之演じる新しくこの地域を担当することになった郵便屋さんが毎日のように手紙を届けに来たり、ダンスホールは客以外の存在で賑やかだ。
賑やかで、そして危機感がない。
しかし、最後の金策として所蔵していた浮世絵を売ろうと準備していたところに、ダンスホールの地下から掘り出された不発弾が様々な不幸な巡り合わせで爆発し、建物や人への被害は少なかったものの、その浮世絵がほぼ全てだめになってしまう。
それでも、ダンスホールの後が「元使用人の経営するお土産物屋、そこで働けと言われている」という状況だからなのか、やっぱり彼女たちには危機感がない。
しかし、朝海ひかる演じる長女は浮世絵を売ろうとしていた「狒々爺」の愛人になってお金を得ようとし、南沢奈央演じる次女は終戦後に電源ケーブル敷設工事にかり出された夫の行方を知ろうとし始め、大原櫻子演じる「別宅さん」の娘は歌手になるべくオーディションを受けるためにレッスンを受けてそのレッスン代の捻出に困る。
平体まひろ演じる末妹は「学者を目指してガリ勉」しているので、4人の中では比較的浮き沈みが少ない。
そうこうしているうちに、何の解決もできず、破綻の匂いが強くなる。
金太郎が義賊に襲われて全財産を失って、ダンスホールの建物を借りることもできなくなる。
そもそも、ダンスホールの建物の所有者に「とんでもない方面から引きがあって貸せなくなった」とも言われていたらしい。
その「とんでもない」「逆らえない」借り手は「国」だった。進駐軍のためのあるいは進駐軍による接収である。
長女の相手の狒々爺が大番頭を務める会社の関連会社が施行をするようで、つまりは、長女は最初から最後まで騙されていた、ということになりそうだ。
次女の夫は、もう2年以上前に戦死していたが「軍の機密保持」のためにずっとそのことが隠されていたと分かり、歌のオーディションはその前日に日比谷公園で開催されたヌード写真のイベントでモデルを務めてレッスン代を捻出していたことを皮肉られて実力を発揮できず仕舞い、唯一の明るいニュースが、闇タバコ屋のおばさんと郵便配達のおじさんが生き別れの兄妹だったと分かったこと、だけだ。
あと、空襲でしゃべれなくなってしまい花売りをしていた女の子がダンスを習いたいと言い出したのも明るいニュースといえば言えるかも知れない。ただ、もうすぐダンスを踊れるホールはなくなってしまうというところが皮肉ではある。
結局のところ、何ひとつ解決はしないまま「明け渡しの前の日までダンスホールを開こう」「踊ろう」ということだけ全員の意見が一致して、最後は歌って踊って幕である。
この舞台が始まった時点から、ラストシーンの時点まで、四姉妹の運命というか生活というかは全く以て上がっていない。何なら何ミリかは下降気味である。下降気味というよりも下がっている。この後も下がり続ける可能性の方が高そうだ。さらに1年後にこの4姉妹がどうなっているのか、暗い予想しか浮かばない。
そして、彼女たちをこういう運命に押し込めたのが誰なのか、彼女たちは分かっていないし、誰も分かっていない。
だからこそなのか、この芝居は音楽劇という形を借り、ダンスシーンも華やかに演じられる必要があったのだなと思う。
そして歌と言えば何といっても大原櫻子である。パワフルで住んでいて、上手い。その実力を遺憾なく発揮し、コメディエンヌとしても大活躍していた。その大原櫻子に負けない美しさでハーモニーを支えていた平林まひろの実力も確かだと思う。この二人のハーモニーはとにかく美しかった。
あとピアノを演奏していた朴勝哲が、この芝居では役名があって台詞があって、演奏するだけでなく演じていたのが意外だった。ちょっとびっくり。
そして、音楽も彼女たちの行く末も歌声も、とにかく切ない。
センチメンタルな意味ではなく、切ない。
そんな舞台だった。
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コメント
抽選結果のメールが届いた。
チケットが確保できた。しかもなかなか良い席である。
とても、楽しみである。
投稿: 姫林檎 | 2026.01.12 09:50