「シャープさんフラットさん」を見る
KERA CROSS 第七弾「シャープさんフラットさん」
作 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
演出 マギー
出演 柄本時生/高梨臨 /安達祐実/田中俊介
トリンドル玲奈/森準人/岩男海史/
白石優愛/土屋翔/小野晴子/松永玲子/
マキタスポーツ/堀部圭亮 ほか
観劇日 2026年7月4日(土曜日)午後1時開演
劇場 紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
上演時間 2時間40分(15分間の休憩あり)
料金 9400円
ロビーではパンフレットや戯曲集などが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、バブル崩壊直前の、お金を掛けまくったタイプのサナトリウムである。
そこに、柄本時生演じる「辻 煙」というペンネームの劇作家が、劇団からも芝居からも恋人からも逃げ出して暮らしている。
サナトリウムは誰にでも入れるのか? と思ったら、どうやら入院が必要な人達と、治療はそこまで必要ではなく「療養」に来ている人と、このサナトリウムの客層は二手にキッパリと別れているようだ。
取材攻勢から逃げ込む、みたいな感じかも知れない。
ケラリーノ・サンドロヴィッチの書いた戯曲を、他の演出家が演出して再演するシリーズの7作目で、この「シャープさんフラットさん」を演出したのはマギーである。
印象としては、映像の使い方は本家のケラリーノ・サンドロヴィッチと似ているな、という感じだ。
その他は、初演を見ていないので何とも言えない。変えたところもあれば変えていないところもあるんだと思う。
唯一「ここは絶対変えたよね」と思ったのは、ラストシーンで劇作家「辻 煙」が生み出した役たちが勢揃いしてはしゃぎまくるシーンである。
安達祐実が黄色いTシャツにジーンズのサロペット、ランドセルを背負って出てきて、自己紹介で「家のない子です!」と言ったのには笑った。そして、今現在もランドセルを背負って違和感のない安達祐実に拍手を送りたくなった。
この舞台で、彼女は入院患者も演じているし、劇作家のアル中だった母親も演じている。
で、そこに小学生である。インパクトがありすぎだ。
それは置いておいて、舞台となっているサナトリウムには、色々な患者がいる。
患者かどうか分からない人も多い。
マキタスポーツ演じるけんけん(漫才師としての芸名)は末期癌であることを、安達祐実演じる精神的に不安定な妻に秘密にしている。
堀部圭亮演じるどこかの傾いた会社の社長は、離婚して妻が親権を持つ娘にこびを売ってもなかなか受け入れて貰えない。
松永玲子演じる入所したばかりの「極道の妻たち」みたいなしゃべり方をする女性は、実はけんけんの元妻であり元相方であるこんこんで、辻煙の笑いのセンスを買っているらしい。というよりも同類らしい。
そして、社長のところに娘が来ているように、実際、面会も自由であるようだ。
劇作家のところにも、劇団の俳優が来ている。そして、「劇作家とよく対立していた演出家を、劇作家が書いた戯曲の演出家として招いた」と聞いて激怒し、その演出家が赤を入れた台本を読んでさらに激怒する。
この辺りのエキセントリックさはいかにも「ケラリーノ・サンドロヴィッチ作」っぽい。
けれど、それが理不尽すぎなかったり、気持ち悪過ぎなかったり、あるいは、「全然理解できない」にならないのは、恐らく演出のマギーがそういう、ある種の過剰な際立たせ方を排除しているからではないかと思う。
何となく不穏、今にも均衡が崩れそうな感じはある。でも、決定的に壊れてはいない。まだしばらくはこのまま維持されるんじゃないかという要らない期待を抱かせる、そんな感じだ。
時間や世界が行ったり来たりして今ひとつ決め手に欠けるけれども、高梨臨演じる劇団の役者と一緒に来ていた劇作家の恋人が、サナトリウムの建物の上階から身投げし、芝や耕したばかりの下段の土に受け止められて九死に一生を得る。
多分、ここまでが前半である。
劇作家は劇団に戻るのか。彼の書いた物は「面白い」のか。彼の書いたものは自分の子供の頃を超えられるのか、子供だった自分を笑わせることができるのか。その辺りがこの芝居の焦点のような感じがした。
一度は劇団に復帰して戯曲を提供すると言ったらしい劇作家は、元恋人が女優復帰して出演すると聞いた途端「やっぱり止めた」と言い出したようで、劇団員たちが抗議と引き留めにやってくる。
バブル崩壊とともにこのサナトリウムも閉館が決まっていて、入所者たちも次々と去って行っているし、従業員たちは飾られている美術品などに「売却済み」の貼り紙を貼ったりしている。
突然「やっぱり止めた」と言い出した劇作家に、演出家や新人らしい役者は噛みつきまくるけど、以前にやってきて劇作家を罵倒しまくっていた役者は「今の劇団は、演出家は、受けているけど面白くない」と劇団を辞めると劇作家に報告し、旗揚げメンバーだった役者は説得するでもなくただそこにいる。
彼は、トリンドル玲奈演じるサナトリウムの従業員の小学校時代の同級生で、彼女は彼が卒業文集に書いた文章を覚えている。自分は周りの人と違う、そういった人達がいる、自分はそういう人達をシャープさんフラットさんと名付ける、そんな内容だったという。
なるほど、タイトルはここからか。
ということは、彼の感じている見ている世界が多分、この舞台で最も提示したかったモノなんだろうな、と思う。
多分、サナトリウムに集っていた人達はみな、多分劇団にいる人達もみな、それぞれが少しずつシャープさんとフラットさんだという前提がこの舞台にはあったのだと思う。
説得に失敗して劇団の人々が帰って行き、雨が強くなり、そして、劇作家の恋人が乗った車がトラックと衝突したという知らせが入る。
彼女の生死は言及されない。ということは、彼女は亡くなってしまったのだろう。
劇作家が叫びだし、そこで暗転して幕、だった気がする。
何だかよく分からないけれど、あっという間に時間が経って、気がついたら終わっていた。
もの凄く集中して見たのに、もの凄く集中したという疲労がない、不思議な舞台だった。
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コメント
みずえ様、コメントありがとうございます。
そして、教えてくださってありがとうございます。
私は自分が「シャープさんフラットさん」を見たことがあるということを、すっかり完全に全く忘れ果てておりました・・・。
もちろん、芝居を見ているときにも、カケラも思い出しませんでした。
我ながら記憶力がなさ過ぎて泣きそうです。
大倉さんとみのすけさんがそれぞれ主役を張って2バージョンを上演していたとなると、相当に雰囲気の違う芝居だったんだろうなと想像します。
多分(当時に書いた感想が正確なら)、今回の上演はブラック版をベースにしていたんだろうなと思いました。
またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2026.07.06 20:56
姫林檎様
私も観ました!
みんな少しずつズレていて、もの悲しいお話でしたね。
特にラストにはびっくりというか、この後みんなどうなるんだろうと怖くなってしまいました。
まあ、年代的に、バブルの崩壊も予想はしてましたが。
「シャープさんフラットさん」の名前は、なるほどと思いましたね。
おそらくみんな、「シャープさんフラットさん」なのではないでしょうか。
ところで、姫林檎さんは初演ご覧になってますよね?
私自分が観た後、「シャープさんフラットさん 感想」でググったら、当時の姫林檎さんのここのブログが出てきましたよ。
姫林檎さん、初演観たんだ!と思いましたもの。
2008.9.28のようです。
今確認しました。
私も大倉孝二版、観たかったです。
正直なところ、柄本時生より大倉孝二の方が好きです。
投稿: みずえ | 2026.07.06 09:33