ベネズエラ旅行記5日目その1
2009年8月19日(水曜日)
モーニングノックが3時30分と宣告されていたし、3時には起き出した。
ボートを飛ばして行くので暖かい格好をと言われたものの、暑い。
空きっ腹でトラックとボートに揺られるのは不安だったので、持ってきたウィダーインゼリーを飲む。
鏡を見たら、顔と首の下辺りに赤いものがポツポツと見えた。プリプリだ。一体いつやられたのだろう。覚えがない。
マユパ島はプリプリの宝庫らしいし、ジャングルウォークもするので、タンクトップにスコーロン素材のシャツとパンツで防備を固める。その上にレインウエアの上下を着込めば、ライフジャケットも着けるし、防寒も含めて完璧であろう。
ジャングルウォークではぬかるみも歩くと言われ、迷った末に、乾きやすいだろう水陸両用の靴を履いた。靴下も履いて、足下の防備も完璧のつもりである。
4時にレストランに集合し、コーヒーとクラッカーで腹ごしらえし、体を温める。
全員集合したところで、まだ真っ暗な中、4時30分にロッジを出発した。
30分ほどで、船着き場に着いた。まだ辺りは真っ暗で、ライトで足下を照らしてくれる。
リュックを大きなビニル袋に入れて口を固く縛り、ライフジャケットを着けてボートに乗り込む。
前日の夕食のときの話は生きていたらしく、ボートの両脇に跳ねる水を受けるべく、私は先頭に座ることになった。といっても添乗員さんとスタッフの少年がさらに前にいる。
ボートはかなりのスピードで進む。
5時10分くらいに、空の色が少しずつピンクに染まり始めた。夜明けが近い。
5時20分にマユパ島に上陸した。
この島の横を流れる急流でボートの転覆事故が起きたため、その後、ボートが「観光客を乗せて」この急流を行くことは禁止されている。
私たちを降ろし、ボートは先回りして待っているという寸法である。
ガイドのウラジミールさん曰く「29分のウォーキング」に出発である。平らだし、轍でできた道はそこそこ歩きやすく、楽勝だ。
マユパ島はプリプリの宝庫で、ツアー出発前に旅行社からもらった防虫ネットを使う機会はここしかないという話だった。「全員で装着して記念写真を撮ろう」と話していたけれど、この暗さでは記念写真は無理である。
歩いているうちに本格的に夜が明け始め、右手前方にテプイの姿が浮かび上がった。
35分かかって島の反対側にある船着き場に到着した。「35分もかかったよ。」とウラジミールさんに言ったら、「そんなに早かったの?」と驚いていた。何だか可笑しい。
マユパ島を出発して15分もすると完全に夜が明けた。
不穏な感じの一面の雲をバックにテプイが浮かび上がって見える。
それにしても、どうしてベネズエラの川は流れが急なのに水面は静かで、綺麗に景色を映し出すのだろう。
6時45分、オルキデア島に到着した。オルキデアとは「オーキッド」、つまり「蘭の咲く島」という意味である。
実際、ボートからも蘭の花が咲いているのが見える。もっとも、私たちが「蘭」と聞いて思い浮かべる、例えば胡蝶蘭のような派手な蘭ではない。
オルキデア島には、屋根あり壁なし机椅子ありのスペースがあって、そこでボートに積んで持ってきたボックスの朝食をいただいた。
同じスペースの隣のテーブルでは韓国からのツアーの人々がやはり朝食を食べている。
朝食のホットサンドが意外なくらい美味しかった。マヨネーズベースのペーストがたっぷりと塗られている。私は完食できなかったけれど、結構、「全部食べたわ〜。」という方がいた。温かいコーヒーが嬉しい。
プリプリの恐怖と戦いながら青空トイレを済ませ、再び出発だ。
オルキデア島を出発し、カラオ川の支流であるチュルン川に入った辺りから、雨が降り出した。
レインウエアの上下を予め着ているし、荷物もビニル袋に入れてあるので慌てることはない。しかし、ポツポツという感じの雨ではなく、レインコートを叩く音が響く、そんな強さの雨である。
目の前にある筈のテプイの姿も全く見えない。
しかも、チュルン川に入ると水深が浅くなり、ボートの底を擦ったり、摺らないために深いところを探してボートが大きく舵を切ったり、どちらにしても盛大に水しぶきがあがり、結構なアドベンチャーである。
雨と水しぶきのダブルパンチでボートの底に水が溜まり、水深5cmくらいになっている。
やっぱりアドベンチャーだ。
そういえば、これだけ雨に降られたのに、「この雨が止まないかも」とか「エンジェルフォールが見られないかも」と思わなかったのは何故だろう。
我ながら不思議である。
雨の中を進むこと1時間20分、ようやく雨も止み、ほんの少しだけ青空が顔を覗かせた。
そして、ギアナ高地に来て初めて、私たちはほんの少しだけ、エンジェルフォールを見ることができた。
この雲に覆われた中、ほんのその隙間からテプイの岩肌と流れ落ちる水の流れが見えた。
よし、このまま晴れる。
何故だかそう確信しつつ、「いやでもこれが最初で最後の機会かも」という弱気も頭を掠めて、添乗員さんに「大丈夫ですよ。」となだめられつつ、必死で写真を撮った。
ボートは、9時前にエンジェルフォール展望台のあるラトンシート島に到着した。
歩き出すとすぐに、エンジェルフォールの全景を見ることができた。手前に流れている川は、エンジェルフォールの水が流れてきた川である。
屋根あり壁なし机椅子ありのスペースでジャングルウォークの準備をする。
暑くなると聞いてレインウエアを脱ぎ、「この場で必要ない荷物は預かってくれる」というので荷造りをし直す。帰りに寄るサポの滝用の水着や着替えなども持ってきているので、リュックは結構膨らんでいる。
カメラとタオル、水、レインポンチョ、飴、リップクリームや虫除け虫さされの薬くらいをエコバッグ入れ、リュックは置いて行く。
エンジェルフォール展望台にエコバッグで行った人間は、きっと私が初めてに違いない。
来るときの雨で濡れてしまった靴下を脱ぎ、裸足に靴を履く。
お手洗いを借りたところで、柱にしがみついている虫を発見し、みんなで大写真撮影大会になった。
綺麗な緑色で、足の模様もなかなか洒落ていて、しかもピクリとも動かない。なかなかフォトジェニックな虫だ。ただし、これが何という虫なのか、珍しいのか珍しくないのかさっぱり判らない。
そうやって私たちが騒いでいる間に、添乗員さんは、今回最高齢でステッキを使っている方とウラジミールさんに先に出発してもらっていた。
残り全員が揃ったところで、9時15分、展望台を目指してジャングルウォークに出発である。
最初のうちこそ土の平らな道だったけれど、あっという間に「ジャングルウォーク」らしい道に突入した。
木の根っこが道を渡り、つるつる滑る。そもそも、「道」と呼べる幅はないような気もする。一人通るのがやっとだ。
小川から覗く石を伝って歩くようなところもある。「下手に石を伝って行こうとして滑って転んだら元も子もありませんから、水の中を歩いちゃってください。」と添乗員さんから注意がある。もっともである。
それでも、やはりぬかるんでいる場所は避けたい。虫さされの危険性と天秤にかけた結果、私はズボンの裾を20cmもまくり上げて水濡れと泥はねを防ぎ、じゃぶじゃぶと水の中を歩き、そのままぬかるんだ場所も歩いた。
40分くらい歩いたところで小休止となった。
少し広くなっていて、そこを過ぎた辺りから道が急になるという。その説明では、ここまでの道は「急ではない」ということになるのがおかしい。タンクトップに長袖シャツを羽織っているだけなのにもうすでに汗だくである。タンクトップなんて色が変わってしまっている。
水分を補給し、息を整える。
そこから5分くらい歩いたところに「SENDERO SALTO ANGEL」という木の標識が立っていて驚いた。
標識がある!
考えてみれば、エンジェルフォールはベネズエラにとっては有効かつ大切な観光資源だろうし、エンジェルフォールを見に来たからにはこの展望台を訪れようという人も一定数いる筈で、驚くほどのことではないのかも知れない。しかし、ずっと木の根っこに阻まれているようなジャングルウォークをしてきたので、ここが「整備された場所」であることが意外だった。
さらに、整備された道でなければ私などが歩ける訳もないとはいえ、何しろ気分はアドベンチャーだったのだ。
この看板を過ぎた辺りから、道は本当に険しくなった。
耳を澄ますと水音が聞こえ、ウラジミールさんが「あれがエンジェルフォールの音だ。」と教えてくれる。それを励みにがんばって歩く。歩くというよりも、よじ登る。
汗が噴き出して、手に持っていたタオルもすでにぐしょ濡れの状態だ。
最後尾を歩いていた私は、この急な石の階段と先行して歩いて行くツアーの方の写真を撮ろうと足下を見ずにカメラを構え、派手にスッ転んだ。
先ほどまでの雨のせいで足下の石が濡れていたのと、これまで履いていたサンダルよりも今日の靴の方が底が薄く滑りやすかったのが敗因だ。
派手にスッ転んだわりに怪我はなく、足首も膝も大丈夫だった。流石に見かねた添乗員さんがカメラを持ってくれると言うのでお願いする。
この左側の写真には私が写っている。背中の上半分は、タンクトップだけでは汗を吸収しきれず、シャツの色まで変わっている。
10時30分少し前、歩き出して1時間と15分で、私たちはエンジェルフォール展望台に到着した。
このエンジェルフォールは、到着した直後に撮ったエンジェルフォールである。
上の方は雲に覆われてしまっている。添乗員さんは、今見えているのは全体の6割程度だと言う。
でも、嬉しかったなぁ。
エンジェルフォールが間違いなくそこにある。
エンジェルフォールの見える場所にたどり着いている。
展望台と言っても、大きな岩が置かれているのかたまたまそこにあったのか、斜めになりつつも比較的平らな岩があるというだけの場所である。
そこに、先着の観光客が20人くらいいたと思う。
ふと気がつくと、あれだけたくさんいた観光客は姿を消し、その展望台は私たちツアー一行の貸し切りになっていた。
こうして日光が射してきたり、逆に添乗員さんに「雨が降るかも知れません。」と言われて寒さよけも兼ねてポンチョを着込んだら本当にパラパラと雨が落ちてきたり、雲が少し上がったり濃くなったり下がったりする。
添乗員さんにどうして雨が降ると判ったのか尋ねたら、腕時計に気圧計が付いていると言われて納得した。
6割の姿でも見られて良かったなぁ、などと呑気なことを考えていたのは私だけだったんだろうか。
後で聞いたら、添乗員さんはこの段階でかなり諦めモードに入っていたらしい。もうちょっと降りたところにプールのようになっている場所があるので、後でそこまで行ってみましょうなんていう提案もしていた。
でも、誰もその提案に応じない。
ひたすら全員でエンジェルフォールを眺めながら、雲が上がるのを待つ。
待つこと50分。
少しずつ、少しずつ、雲が上がり始める。
雨が降ったことが逆に幸いし、軽くなった雲が上がり始めたようだ。
そして、さらに待つこと5分。
滝の落ち口に薄くかかっている雲さえ上がり切ってくれれば、エンジェルフォールの全景が見られる。
もう、他のツアーメンバーのことなどすっかり忘れていたけれど、多分、みな、思い思いの場所に陣取り、そして、固唾を飲んで見守っていた筈である。
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エンジェルフォール展望台に到着してちょうど1時間後の11時26分。
エンジェルフォールは、このとおりその全貌を現してくれた。
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