2009年11月20日(金曜日)
桜貫渓谷、竜神大吊橋、袋田の滝をめぐる日帰りバスツアーの集合時間は8時15分だった。
いつも出勤する時間に家を出るとちょうど間に合うくらいというのが有り難い。
8時過ぎに集合場所に到着するとすでにバスは来ていて、添乗員さんに「**さんですね。」といきなり名指しで確認された。
思わず「私が一番最後ですか?」と尋ねたらそうではないと言う。最後の一人だから特定されたわけではないらしい。バスの座席表を見て、一人で申し込んだのは私だけだったし、私以外の参加の方々はみなさん私の母くらいの年齢の方々だから特定できたのだと納得した。
私は本当に最後に一つ残った空席に滑り込んだようで、参加者は全43名、お隣は添乗員さんだった。
8時15分に出発したバスは、常磐道に乗り、左手にくっきりとした筑波山を望みながら走り、9時10分に最初の休憩場所である友部パーキングエリアに到着した。
途中、爆睡する私が起きるのを待っていたらしく、目が覚めると参加者名簿の記入と参加費の徴収があった。前々日に申し込んだので、料金は当日精算だ。
紅葉の時期だからか、PAのお手洗いは平日なのに行列ができていた。びっくりである。
パーキングエリアを出ると、「試食です。」と納豆せんべいが配られた。そのすぐ後に、お土産の車内販売の注文書が配られる。
このツアーでは最後にお土産物屋さんに寄ることになっているけれど、そこはこんにゃく屋さんで、いわゆる普通のお土産はあまり売っていない。そのため、試食の納豆せんべいや、「水戸の梅」などを車内販売するという。
さらに、「お帰りになった後、夕食を作るのは大変というお客様も多くて。」と、夕食用のお弁当の注文にも応じてくれる。
日帰りバスツアーがこんなに至れり尽くせりだとは知らなかった。
10時10分に高萩インターを降り、細い道を15分くらい走って桜貫渓谷に到着した。
添乗員さんから「吊り橋まで上り坂を歩いて15分くらいです。集合は11時10分です。」とアナウンスがあった。
「私はゆっくり行きますから。」とおっしゃるので「すみません、がっと行っちゃっていいですか?」と、一人でとっとと歩き出した。
バスの中では爆睡しているし、手がかからないといえば手がかからない、不安要素満載といえば不安要素満載な客だろうなと少し反省する。
駐車場を歩き出してすぐのところにある「乙女の滝」にかかる緑から黄色のグラデーションの紅葉が綺麗で写真を撮っていたら、すぐに追いつかれてしまった。
この乙女の滝は、駐車場の近くから降りて行く道があって、滝壺まで簡単に行くことができる。行こうかどうか迷い、「帰りに寄ろう。とにかく吊り橋まで行って来よう。」と先を急いだ。
吊り橋までの道は小さい綺麗な川沿いに続く。
川に張り出すようになっている紅葉が黄色から赤のグラデーションになり、陽が射しているのに見とれてまた写真を撮ったりしていたら、あっという間に置いて行かれてしまった。
全く、何のために先を急いだのか判らない。
道々、写真を撮りながら15分で到着した。まじめに歩いたら10分弱で到着すると思う。吊り橋だ。
そして、唖然とする。
まさか吊り橋が満員御礼になっているとは思いもしない。
しかも、橋の上を隙間なく人が歩いているだけでなく、吊り橋の入口は渡るための「行列」ができている。
後になって、これはたまたま何台かの観光バスがほぼ同じ時刻に到着したために起きた渋滞で、一時的なものだったと判った。納得だ。それにしても驚いてしまった。
同時に、週末に来ないで良かったとほっとする。
吊り橋を渡ったその先は、キャンプ場まで土の道が続いており、そのキャンプ場からの紅葉の眺めもいいらしい。心惹かれつつ、制限時間残り45分の身ではいかんともしがたい。
朝の青空から、この桜貫渓谷に到着した辺りで雲が出始め、歩いているうちに太陽が雲に隠れたり現れたりするようになっていた。
日差しを待ってぎりぎりまで吊り橋周辺で粘ったため、橋の上から見えた滝や川岸に降りる時間がなくなってしまった。
お天気から言っても、紅葉の具合から言っても、今回のツアーのベストポイントはこの桜貫渓谷だったと思う。
この辺りまでは暖かくて、持って行ったダウンジャケットは着なくても大丈夫なくらい、ヒートテックの長袖シャツにタートルネックの長袖シャツ、その上に綿素材の長袖シャツを羽織ってちょうどいい陽気だった。
ダッシュで出かけてダッシュで戻ってきたのであまりちゃんと見られなかったけれど、駐車場では、おでんなどなどの屋台が出ており、また、仮設トイレも設置されていた。
バスに乗り込むときに、万年屋の三浜たこめし弁当が配られた。
出発時点では「竜神大吊橋のところにベンチがあって、今日くらいのお天気でしたら、外で食べた方が気持ちいいと思います。」とアナウンスがあった。これが、帰り際には10台を超えていた観光バスに恐れをなしたのか、「ここに来ているバスのほとんどはこのまま竜神大吊橋に行くと思いますので、もしかするとベンチに座れないかも知れません。」というアナウンスに変わった。
1時間弱かかるというし、ペットボトルのお茶は持っているし、歩いてお腹も空いたし、バスの中でお弁当をいただいた。
なかなか美味しい。胃の調子が万全だったら、多分、完食していたと思う。
12時過ぎに竜神大吊橋に到着した。
すでに空は一面の雲に覆われている。そして、黄色が主体の紅葉で緑がまだ残っていて、ちょっと暗めに見えてしまうのが残念である。
竜神川に多目的ダムとして作られたのがこの竜神ダム湖だ。
湖面からこの写真を撮った吊り橋まで100mの高さがある。
ダム湖と反対の方を見れば、遠くの山々の黄葉まで見渡すことができる。
曇ってしまった空が恨めしい。
この吊り橋を渡るときに、係の方から「ダムの上を渡ってぐるっと回ってきても1時間かかりませんよ。」と教えていただいた。
どうしようかと迷いつつ写真も撮りつつ全長375mの吊り橋を渡りきると、ちょうど残り時間は30分だった。
果たして、半分の時間で回って来られるか、後から思うと、平らな道ならともかくとして、どうみてもアップダウンの激しいこのV字峡を私が1時間で回れるはずもなかったのに、このときはそんなことは考えもしなかった。
「だめそうだったら戻ってくればいいや」と遊歩道の階段を降り始めた。
あと少し、もう一つ階段を下りたら綺麗な景色が見られるかも、などと先を急いで階段を下りてしまい、こんな写真まで撮ってふと気がつくと階段を下りきって湖面に到着し、しかも、集合時間まで15分を切っていた。
階段を下りきったところにある回転扉は、何故かこちらから外に出るのではなく、外からこの階段に入るためのものらしい。
有料(橋を渡るのに300円かかる)の領域から無料の領域に行く方に制限がかかり、無料の領域から有料の領域に入るにはフリーパスというか回転扉がその方向に回るというのは理解できない。
仕方なく、すぐ横の柵を乗り越えて、ダム方向に向けて歩き始めた。
しかし、少し歩いただけで気がついた。
見た目よりもダムは遠い。
慌てて引き返し、今降りてきた階段を逆に上り始める。
キツイ!
あっという間に息が切れ、ぜーぜーはーはー言い出す。足もあっという間に重くなり、階段の段差分足を上げるのでさえキツイ。手すりをにぎりしめ、腕の力で体を持ち上げる。
まっすぐ立って歩くことすらできず、もう、体は腰から半分に折るようにして階段を上る。
よくぞ手をつかずに登ったものだと、自分で自分を褒めてあげたいくらいだ。
こうして、無謀にも遊歩道の階段を下りてしまった私は、その報いをたっぷりと受け、しかし、橋を渡ったところにある鐘は鳴らして、鐘の分、2分遅刻してバスに戻ることができた。
ご迷惑をおかけして申し訳ない。
橋を渡った先の竜神の絵の下に位置する鐘は、100円で鳴らすことができる。
愛情、幸福、希望とあって、愛情の鐘はボタンが二つ離れたところにあり、二人以上いないと押せない仕組みになっている。何だかしゃくに障る鐘である。
幸福と希望とどちらを選ぼうかと迷った末、ここは「希望」の鐘を鳴らすことにした。
そして、鳴らした後で、ここで「幸福」を選べないのが私の弱さだよな−、と思った。
私の遅刻の分、13時5分過ぎに出発したバスは、13時40分に袋田の滝に到着した。
ここまで、かなり順調な行程である。
少し手前のホテルの駐車場にバスは駐められ、トンネル入口まで一緒に行きましょうということになった。
川沿いを歩くと、お土産物屋さんの店先では鮎や里芋、こんにゃくが炭火で焼かれて売られている。いい匂いである。
袋田観瀑施設利用券(これで、トンネルを通り、第一観瀑台を利用し、第二観瀑台までのエレベータの料金も含まれる。250円)を渡される。個人だとこれが300円になる。
トンネルを入ってしばらく歩くと、右手に第1観瀑台がある。
目の前を轟音を立てて滝が落ちていて、かなり圧倒される。音も凄いし、滝までの距離も近いし、とにかく迫力である。
袋田の滝は、日本三名瀑の一つと言われていて、高さ120m、幅73m(この写真では滝の幅全体を捉えることはできていない)ある。そう数字で言われるよりも、この「目の前感」と「音」が凄い。
前日に降った雨のせいか、水量も多いのだと思う。
昨年秋に完成したという第2観瀑台には、エレベータで向かう。
エレベータで向かった先は三段のデッキになっている。
最近、よく見かける左手から赤いもみじの枝が張っている袋田の滝の写真は、恐らくこの第2観瀑台の真ん中のデッキから撮ったものだと思う。残念ながらそのもみじはほとんど葉を落としてしまっている。
第2観瀑台からは、滝が遠くなって音も聞こえず、そういう意味で迫力に欠ける。逆に「四度の滝」と呼ばれるその所以をはっきりと確認することができる。
四段に落下し、その一段一段で白く岩肌を弾いて落ちる滝の姿は、何と言っても見事である。
袋田の滝では制限時間90分と言われていた。
青空が見えているところもあって、そうなると太陽の光の当たった滝をぜひ見てみたい。
こちらに到着したときに、同じバスの方で「日帰り温泉があるから入ろうよ!」とグループで相談されている方がいて、そちらにもかなり心惹かれつつ、制限時間いっぱい粘って、袋田の滝を堪能した。
添乗員さんのお薦めに従って、帰りは吊り橋から帰ることにした。
一応、余裕を持って20分前に出る。こんな風にもみじの後ろに滝の姿が見えたりすると、つい立ち止まって何枚も写真を撮ってしまう。
袋田の滝の下流にかかっている吊り橋は、竜神大吊橋はもちろんのこと、桜貫渓谷の吊り橋よりも華奢といえば華奢、吊り橋らしいといえば吊り橋らしく、歩くと揺れて、「おぉ。揺れるよ」などと当たり前のことを一人呟きながら渡った。
吊り橋から駐車場までどれくらいの距離があるのだろう。
そう思って足を速めつつも、「滝見茶屋」なんて言葉につられて階段を上ってしまい、本当はいけなかったのかもと思いつつ、もみじの向こうに見える滝の写真を再び撮る。
こういうことをするから余裕をもった行動が必要である。
あと10分というところで見覚えのある辺りに戻ってくることができた。
お土産物屋の店先が気になって、ゆず味噌を塗った里芋とこんにゃくの串(1本250円)を買い求め、食べ食べバスまで戻る。
あとは、お土産物屋さんに寄って帰るだけである。
こんにゃく関所というそのお店はこんにゃく屋さんで、湯葉のお店も併設している。お手洗いも併設されている。
こんにゃく芋から作ったこんにゃくが一番美味しい、とお店のおじさんが力説する。
試食もできて、確かに、普段食べているこんにゃくと食感が全く違う。通常のこんにゃくは、こんにゃくの粉から作るけれど、その「一押し」のこんにゃくはこんにゃく芋から作っているという。
刺身こんにゃくでもいいし、煮物にしても美味しい、1週間保つというので、一つ(500円)買い求めた。
おとなりの「ゆば壱」でも試食させてもらい、こちらは珍しいと思った、青大豆の湯葉と黒大豆の湯葉のセット(1200円)を買う。
このゆば壱では、おからの持ち帰り放題をやっていて、添乗員さんの「持って帰らない? お母さん、近くにいるんでしょ?」と私が料理をしないことを見抜いた一言につられ、ツアーの方の「おからはから煎りするとふわっとなるから、そうしてから煮たりおからコロッケにしたりすればいいのよ。」という声援に負けて、ビニル袋一杯のおからをいただいた。
帰り道は、一般道では流石に金曜日の五十日で少し渋滞したけれど、16時30分に那珂インターで高速に乗ってからはすいすい進み、再び友部パーキングエリアで休憩し、19時30分予定が18時に帰着した。
年配の方に混じって一人で日帰りバスツアーに参加して大丈夫かしらなどと心配していた筈が、行き帰りのバスの爆睡、観光地では一人気ままに動き回り、北茨城の紅葉を堪能・満喫し、図々しく1日を楽しませてもらった。