知床流氷旅行記2日目
2011年2月27日(日曜日)
早朝、流氷ウォークのオプショナルを申し込んでいた。
4時30分に起き、持参したマドレーヌとコーヒーで軽く腹ごしらえをする。お腹が空いていたら寒いんじゃないかという気がする。
ホテルのロビーに5時30分集合だ。流氷ウォークが終わった後はとにかく手が冷たいと聞いたのでカイロを用意し、その他、タオル、カメラ(あまり高いものだと預かれませんと言われている)を持ち、帽子を被ると聞いたのでゴムとバレッタも用意する。
事前にもらった注意書きには「ズボンの裾を入れるために長めの靴下を用意してください」とも書いてあった。
ゴジラ岩観光のバンが迎えに来て、ホテル知床に向かった。
ホテル知床にも同じツアーの方が宿泊していて、ロビーで全員揃ってドライスーツを着る。前日に身長体重を申告してあり、サイズの合ったドライスーツ、帽子、手袋を渡される。
身長に合わせて渡されたドライスーツはぶかぶかで、「このままでは水が入ってくるから。」とスタッフの方に首回りをバンドで締めてもらった。キツイけれど、キツイくらいじゃないと水が入ってきてしまうので、これは仕方がない。
脱いだ靴と上着を持って、再びバンに乗り込んだ。
港に到着してから手袋をした。自分では嵌められず、スタッフの方に「力を入れてください。」と言われてぐっと押すようにして嵌めてもらう。
カメラをスタッフの方に預ける。
スタッフのほとんどは、夏は漁師、海に出られない冬の間だけ流氷ウォークなどのスタッフをしているそうだ。
この日は海岸沿いに少しだけ流氷が来ている(というよりも残っている)状態だった。
流氷ウォークというよりは、流氷に乗った、という感じである。
もっと沖合まで流氷が詰めてきているときは歩けるらしい。この日は厚さ5〜10cmくらいの氷が浮かんでいる感じで、とても歩くことはできない。歩こうとすれば氷が割れて海に落ちてしまう。
だから、どちらかというと流氷ウォークというよりは、氷が浮かぶ海に自分も浮かんで楽しむ、という感じになる。
友人に「流氷の音を聞いてきて!」と言われていたけれど、この状況で流氷同士がぶつかる筈もなく、波は穏やかで動いておらず、「音」を確認することはできなかった。
その知床の氷の下に、クリオネがいた。
スタッフの手の中で泳いでいる。「クリオネってつまるところ何なんですか?」と聞くと、あっさり「貝です。」というお返事である。貝がらはどこにも見えない。蛍光オレンジで、大きさが1cmくらいある。
「岩場に多いんですか?」と聞くと「そうではなくて、氷の下ならどこにでもいる。」と言われ、その後、かなり一生懸命海を覗き込んでクリオネを探したけれど、自分で見つけることはできなかった。
1時間くらい、流氷の上に立ったり、海に入ってぷかぷか浮かんだり、流氷の上に戻ろうとして腕力が足りずにバタバタしたり、スタッフの方に写真を撮ってもらったり、厳冬の海を楽しんだ。
そうして、海から上がると手袋の中に結構水が入っていた。
冷たい。
「手を振ると温かくなります。」とスタッフの方は言うけれど、温かくなったという感じがしない。ちゃぷちゃぷ言っている。
滑りそうな階段を上がってバンまで戻り、手伝ってもらってドライスーツと手袋を脱ぐと、途端に手がかじかむのが判った。
ホテルに戻ったのは7時過ぎだ。フロントで、朝食のおにぎり弁当をもらう。
出発まで50分あるから朝食はゆっくり食べられるなと思っていた。ところが、水筒にお茶を作ったりしていたら時間がなくなってしまい、おにぎり弁当は、お部屋で半分、バスに乗ってから半分を食べた。ここでも水筒が大活躍である。
10分も走ると、バスは、昨日の到着前にライトアップされた状態を見たオシンコシンの滝に到着した。
「滑りやすいですから気をつけてくださいね。」「恥ずかしながらここで転んで骨折したガイドがおります。」というバスガイドさんの注意を受け、バスを降りる。
滝の全景を見るには少し階段を上がる必要があり、そこが滑りやすい。
滝は中心部というか、岩に近い部分が凍結していて、その表面を水が流れ落ちているという感じである。
落差80mだ。滝の高さ半ばまで階段で上がれ、見た感じは「凄く高い」という印象はない。
途中から流れが二つに分かれていることから「双美の滝」とも呼ばれている。
もっとも、半ば凍結していたせいか、全体的に水も氷も雪も白いせいか、途中から二つに分かれているかどうかはよく判らなかった。
添乗員さんだったかガイドさんだったか忘れたけれど、とにかく「あそこにエゾシカがいます!」と教えてもらって滝の上を見ると、確かにそこにエゾシカがいた。
私にはそれがエゾシカか他のシカかシカですらないのか実は見分けがつかない。地元の方がエゾシカだといえばそれはエゾシカに違いない。
目一杯ズームを効かせて写真を撮る。黒目がちの大きな目とハート型に白い毛になっているお尻が可愛い。
すっかり満足してバスに戻った。
バスの車窓から、鉛色の空とぷかぷかと浮いている流氷を見ながら、流氷ノロッコ号に乗車する知床斜里駅に向かう。
8時55分発だ。自由席利用ということもあり、早めに駅に到着したようだ。
流氷ノロッコ号は、通常の客車と、テーブル席と海を眺められるよう窓に向いた席があって達磨ストーブが設置されている展望車がある。達磨ストーブでは、車内販売で買ったするめなどを焼くこともできる。
自由席とはいえ一人くらい何とかなるだろうとうろうろしていたら、朝ホテルのロビーで会ったご夫婦が「席を確保したから。」と招いてくださった。感謝である。
ノロッコ号で一番印象に残っているのは、とにかく寒かったことだ。
後で聞いたところでは、一番列車(私たちが乗った列車)は車庫から出てきたばかりで、ストーブを入れても冷え切った客車や座席を温めることはなかなかできず、かなり底冷えするのが常らしい。昨日のおーろら号で寒さ対策に履いていた綿入れのズボンを、ここでも履くべきだった。
流氷ノロッコ号は、名前のとおり「流氷を見ながら電車に揺られる」ことがでポイントだ。
残念ながら、知床斜里駅から離れるに従ってさらに海に浮かぶ流氷は減り、車窓から流氷を見ることはほとんどできなかった。
北浜駅で流氷ノロッコ号を下車した。
北浜駅にはノロッコ号も15分ほど停車し、駅のホームに作られた展望台に上って海を眺めたりすることができる。もっとも、展望台に上がっても、流氷の姿は全くと言っていいほど確認することはできなかった。そんな日もある。
空も相変わらず鉛色である。
バスで一駅戻って、JR浜小清水駅兼道の駅はなやか(葉菜野花)小清水でお手洗い休憩になった。
もちろん、ついでにお買い物もする。
株式会社北都という会社のカレー缶がめちゃくちゃ気になる。何しろ、「熊カレー」とか「エゾシカカレー」というラインアップだ。
ガイドさんのお話によると、ガイドさんが子どもの頃には普通に花咲かにカレーとか、ホッキ貝のカレーとかをお母さんが作ってくれてイヤというほど食べていたそうだ。お肉のカレーが食べたいと思っていたとおっしゃるのだから、こちらからしてみると贅沢な話である。
今でもホッキ貝のカレーは普通に作って食べるという。
妹夫婦が我が家に来たときに話の種に食べるにしても、熊カレーはインパクトがありすぎだろうと、蟹カレーを2缶買った。1缶二人分で1050円だから、「異様にお高い」というお値段ではないと思う。
バスは摩周湖に向かった。
「霧の摩周湖」というイメージだし、窓から見える景色はずっと一面の雪だったので、正直に言うと湖が見られるとは期待していなかった。
登り道にさしかかる前、うっすらと見えた山陰を確認したガイドさんは「この山が見えていれば、多分、湖も見えていると思います。」とおっしゃる。
確かに到着したときには、鉛色ながら湖面がくっきりと見えた。少し前まで霧がかかって見えなかったというから、不思議である。
11時15分から45分間の時間が確保されていて、気温0度で太陽も見えない中でそうそう摩周湖を眺めるだけで時間が過ぎるわけもない。ツアー参加者のほとんどはお土産物屋さんに入ってしまう。
ここのお土産物屋さんは、品揃えが豊富だ。おーろら号の乗船場で「オホーツクブルー」という名前で売られていたソーダ味のソフトクリームが、ここでは「摩周湖ブル−」という名前で売られている。可笑しい。
私もここでロイズのポテトチップチョコレートや、カルビーのジャガポックルなど、よく考えれば空港でも購入できる定番のお土産を購入した。
ジャガポックルは一時、あまりの人気に店頭から姿を消すほどだったらしい。「最近は戻って来ているけれど、ジャガポックルを見かけたらそこで買う方がいい。」とガイドさんのアドバイスがあった。
お土産を買っている間に少しだけ日射しが戻って来て、先ほどよりずっとブルーの濃い摩周湖を見ることができた。
満足である。
季節には川湯温泉から摩周湖にスターウォッチングのバスが出ているそうで、夏に来てみたいなと思った。
昼食は、レストハウス 摩周プラザというドライブインでいただいた。
昨日のうちに予約注文してあるので、用意されるのは早い。
私は豚丼(1050円)を食べた。正直に言うと、これで1050円は高いなと思った。そして、あるいは違いがあるのかも知れないけれど、店頭にあったメニューに「豚丼850円」と書いてあったのが何となく納得がゆかない。
13時30分になる前に、バスは標茶駅に到着した。
ここから終点の釧路まで、SL冬の湿原号に乗る。
標茶駅では、サービスで改札開始前にホームに入れてくれ、SLの写真を撮ることができた。今度は指定席なので席取りをする必要もないから、もちろん写真撮影に走る。
SLは盛んに蒸気を吹き上げている。
駅員のおじさんに「これは暖機運転をしているんですか?」と聞いてみると、「違うよ。こんなことはやらなくてもいいんだよ。サービスだよ。」という返事で、何だか笑ってしまった。
せっかくサービスしていただけるならと、勢いよく蒸気を出した瞬間を写真に撮る。
ホームには鉄道ファンらしい人が大勢いる。駅員さんと話していたら「写真を撮らないならどいてくれ。」と怒られてしまった。邪魔して申し訳ない。
SL冬の湿原号の車内もテーブル席になっていて、達磨ストーブの上で車内販売のするめなどを焼けることもノロッコ号と同様である。
席は4人掛けになっていて、私は家族3人で参加されていた方のテーブルにお邪魔する形になった。流石に何となく気詰まりだったことと、先頭から2両目に緩急車と呼ばれる昔ながらの車両が連結され、ネイチャーガイドの方の説明も聞けるということだったので、緩急車に居着いた。
決して乗り心地がいいわけではないし、何となく煤も入って来て全身に煤の匂いがついてしまったけれど、でもこれはなかなか楽しい。
同じツアーの方がするめを焼いていて、ご馳走してくださった。お酒も用意していて、準備がいい。
もうしばらく走ると右側に丹頂鶴がいるかもと言われ、窓の外を必死で探していると、畑のようなところに丹頂鶴がいた!
車もたくさん来ていたし、SLもわざわざ停まっていたのでそこは丹頂鶴のポイントなのかしらと思う。後で調べたところでは、芽沼駅の駅長さんが長年にわたって餌付けをしてきた場所だった。
この3羽の丹頂鶴は、親子である。
真ん中にいる羽の色の少し薄い一羽が子どもだ。この夫婦はまたこれから産卵の時期に入るので、子どもをイジメて親離れを促すようになる。だから、この一家の最後の家族団らんの様子を見られたとことになる。
丹頂鶴を初めて生で見たような気がする。優雅で優美である。
贅沢を言うと、飛ぶ姿が見たかったなぁと思う。
その後も、ネイチャーガイドの方に教えてもらい、かなり遠かったものの湖の岸辺に集まっているオオワシを見ることができた。
ガイドさん曰く「ごま粒ほどの大きさ」だ。
オオワシは世界中で北海道のこの地域にしか生息しておらず、ヨーロッパの人などが何十万もかけてオオワシを見に来るという。鷲のファンは、一生のうちの北海道のオオワシとアンデスのハゲワシをぜひ見たいと思うものらしい。
そろそろ食事どきだそうで、エゾジカの群れや、子連れのエゾジカが川岸に降りてきているところも見られた。一瞬で通り過ぎてしまい、写真を撮れなかったのが惜しい。可愛かったのに残念である。
また、川辺の水際ぎりぎりにミンクがいるかも知れないと教えられ、必死になって探す。見た目は狐に似ていて、黒っぽいのがいたらミンクである。この近くにあったミンクの飼育場から逃げ出して野生化したらしい。
ミンクは地元の特産で、ミンクを飼って、毛皮のコート等々に加工する工場があるという。コートを作るのにミンク何頭分もの毛皮が必要で、しかも色目や毛並みが揃っていないといけないので、とても大変な作業になるという。エサの食べ方なども同じに揃っていないと毛並みが揃わないそうだ。
そうして苦労して育てた後、毛皮をテープ状にして全て手作業で縫い合わせる。1着500万円くらいしても当然だ、とおっしゃる。
この辺り(といっても、そのお話を伺ったのがどの辺りだったのか、全く判っていない)は、海岸線から30kmほど離れているのに、標高が8mくらいしかない。高低差がないので川の流れはとても穏やかで、魚も結構いるから釣りをする人も多いらしい。
ミンクも泳げるということだし、魚目当てで川岸に降りてくるのだろう。
ミンクは見られなかったけれど、その後もエゾシカの群れは何度か目にすることができた。そうやって窓の外に目を凝らしていると全く飽きることはない。
15時過ぎに釧路駅に到着した。
少し時間があると言われ、SLの運転席の写真を撮りに走る。乗務員さんに「撮っていいですか?」と聞いたら、無理して身体を引いてくださったので、ばっちり運転席の様子を撮ることができた。
でも、これでは少し寂しいので、乗務員さんに入ってもらってもう一枚、撮らせてもらった。
旅の行程もこれでほぼ終了である。
釧路駅から再びバスに乗り込み、たんちょう釧路空港に向かう。
釧路の主な産業は製紙業であること、釧路湿原はもう使い道もないから潰してしまおうかというタイミングでラムサール条約で登録されたこと、たんちょう釧路空港の入口にはかなりデキのいい丹頂鶴などのオブジェが飾られていることなど、地元ということもあってガイドさんの説明にも熱が入る。
一番印象に残ったのは、北海道の家には雨戸がついていない、なぜなら戸袋に雨戸をしまうと凍り付いて出せなくなってしまうから、という話だ。
16時50分発のANA744便に乗るため、16時過ぎに釧路空港に到着した。
家に電話してみたら「六花亭のストロベリーチョコが食べたい」というリクエストがあり、空港の売店で購入する。
北海道最後の「食」として、添乗員さんお勧めの森高牧場のミルクソフトを食べ、1泊2日、超充実の知床流氷の旅を終えた。
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