白馬旅行記(2011)2日目
2011年8月22日(月曜日)
4時くらいに目が覚めてしまった。旅先では異様に早起きになるのが不思議である。
二度寝を楽しんでから、6時くらいに朝風呂に行った。昨日の夜と同様、見事に人がいない。独占状態である。
露天風呂で30分以上ものんびりした。
7時からの朝食を待ちかねたようにして食べに行った。今日の予定は盛りだくさんだ。
温泉旅館の常で、ビュッフェ式でありつつ和食の方が充実していたように思う。氷の入った水にきゅうりが何本もつけてあって、木槌と台が横にあり「叩いてお召し上がりください」という趣向もあった。
それでも何故か、母も私も旅先の朝食ではついつい洋食を選んでしまう。今回も洋食メニューの朝食をいただいた。
8時過ぎに白馬八方バスターミナルを出発するバスで栂池に行きたかったので、7時50分にチェックアウトし、大きな荷物を預かってもらい、栂池自然園のリフト割引券を購入した。
フロントの方に「今日は雨が降るでしょうか。」と尋ねると、カチャカチャっとキーボードを操作して「降りますね。」と断言された。10時から14時までは曇りの予報で雨が落ちる可能性は結構あるし、14時以降は雨が降る予報になっています、とさらに力強く解説してくれた。
しかし、母に笑われながら折りたたみではない傘も持ってきているし、レインパンツとレインポンチョも持っている。雨の予報くらいではひるまない。予定どおり、栂池に向かうことに決めた。
宿のバスでバスターミナルまで送ってもらい、8時15分発の栂池高原行きのバスに乗り込んだ。
周りは、かなりしっかりとした登山用の装備を整えた方々がいらっしゃる。
バスは20分くらいで終点の栂池高原に到着し、バス停からすぐのところにあるゴンドラ乗り場に向かった。
1台に1組ずつ乗せてくれて、それでもほとんど待ち時間はなかったから空いていると言っていいだろう。やってくるゴンドラの窓は濡れていて、上は雨が降っているらしい。しかも、栂池自然園の現在の気温は14度などというアナウンスが入って戦々恐々とする。
ゴンドラに15分も乗ると雨もあがったようで、窓に水滴がつかなくなった。心なしか空も明るくなったようである。
ゴンドラを降りてロープウエイに乗り換えると、こちらは案内のおじさんが同乗してくれた。
色々と解説してもらった中で私が覚えているのは、オオシラビソという木のてっぺんに球果という紫色の松ぼっくりのような実がついていること、今年はそれがとりわけ多く大きいこと、という二つだ。
ロープウエイの窓からもちょうど同じ高さにこのオオシラビソの木のてっぺんが見え、紫色の実を確認することができた。
20分揺られたゴンドラを降りたところだったか、そこから更に乗り換えたロープウエイを降りたところだったか、どちらかの乗り物を降りたところで「栂池自然園の晩夏」とタイトルをつけた案内の紙が売られていた。
A4サイズの紙の両面にちょうど今頃咲いている花の写真を載せて名前を書き、ビニル袋に入れて販売されていた。1枚200円。花好きの母は迷わず購入していた。これを持って歩いたら楽しさ倍増だったので、買って正解と思う。
栂池自然園のビジターセンターで昨日からずっと探していたポストを発見してハガキを出し、レインパンツを履き、レインポンチョはすぐ出せるような場所に移して9時30分くらいに歩き始めた。
母と私がこうしたところを歩くと、コースタイムの2倍かかるのが常である。足もともそんなにしっかり作ってこなかったので、わたすげ湿原一周コース(案内によると往復1時間)を歩くことにした。
楠川を渡った先はアップダウンが結構あるらしい。
歩き出してすぐトリカブトに出会ってびっくりした。こんなに普通に綺麗に咲いているとは思わなかった。
お花を期待するには時期が遅すぎたかと心配したけれど、そんなことはなく、結構、たくさんのお花が咲いていて嬉しかった。サラシナショウマという白い縦長に咲く花もかなりたくさん見たと思う。
空一面に雲がかかり、その雲が刻一刻と降りてきている感じがありつつも、雨はポツポツと来ただけでラッキーだ。
赤から白にグラデーションになっているお花が可愛くて気に入っていたものの、未だに名前も判らない。母と、赤い花と白い花があるのか、咲くにつれて白くなっていくのか、間抜けな論争をする。
蕾のときは赤くて咲くに従って白くなるのだとすると、シロバナハナニガナかなと思う。全体のシルエットが違うような気もしてあまり自信がない。
母はさくさく進む。時々「これ、写真に撮っておくと可愛いと思う。」などと、翻訳すると「写真を撮っておくように。」と私に命じて本人はまたまたスタスタ行ってしまう。私はなかなか追いつくことができない。
ミズバショウ湿原が終わって、ビジターセンターに戻るかわたすげ湿原に向かうかの分岐の辺りまで、30分かかった。
そうこうしているうちに、青空が見えてきた。
オオシラビソの球果も見上げるような格好になりつつ、近くで見ることができた。確かに紫色をした大きな実が付いている。
晴れてくると栂池自然園の歩道にはほとんど日陰がないことが判る。
夏の日射しを浴びると、あっという間に暑くなった。晴れて初めて曇り空という天気の有り難さが身に沁みる。
私は雨に備えてレインパンツを履いていたので、さらに暑い。
急いでレインウエアを脱いでリュックにしまう。それでも、僅かな間に大汗をかいた。
購入した植物の紹介の紙は主にお花が載せられていて、あちこちで見かけた黒っぽい色の実もまた、残念ながら正体不明である。
食べられる実だったんだろうか。
そんなことを母としゃべりつつ歩くことさらに30分、楠川に辿り着いた。ここからさらに進めば浮島湿原がある。残念ながらそこまで行く体力も用意も時間もないので、次回のお楽しみということで引き返す。
せっかくなので河原に降りて水に触ってみると、とても冷たかった。飲んでみたかったけれど、お腹を壊しても困るので自粛した。
よくあんなに遠いところにいる小鳥に気がつきましたね、と言いたいくらい遠くにいた小鳥に母が気付き、「写真撮れる?」と言う。今回私が持ってきたカメラはコンパクトカメラでズームが3倍までしか効かない。それでも目一杯ズームしてチャレンジする。
一方で、普通に赤い花が咲いた湿原を撮ったらチョウチョが写り込んでいた。
葉っぱの真ん中に花のような薄黄緑の萼のようなものがある植物も正体不明だ。
母がこの植物の写真がビジターセンターで絵はがきとして売られていたと言っていたようにも思う。絵はがきはともかく、フォトジェニックであることは確かだ。
また、歩いている途中、「風穴」も見ることができた。火山活動の名残で夏でも涼しい風が吹き出していると説明書きがある。元々が涼しかったせいか、私にはその「涼しい風が吹き出している」のは感じ取れなかった。
ゴンドラの中からクルマユリが咲いているところが見えていたのに、栂池自然園に入ってからは何故か見ることができないでいた。
風穴も過ぎたコースの最終盤になって(もっとも、それは母と私がたまたまそういうコース取りをしただけであって、風穴を先に回るコース取りももちろん可能である)、木道から近いところで色鮮やかなクルマユリを見ることができた。満足である。近くで見ると、いっそどぎついくらいのオレンジ色だと思う。
季節柄なのか、高山植物にはそういうものが多いのか、白を基調とした清楚な花ばかり見て来たので、ここまで強く色で自己主張されるといっそ清々しい感じがした。
「紅葉している木があるよー。」とか、「青空が見えたって証拠に写真を撮っておかなくっちゃ。」とか、母と二人で騒ぎながら歩いていたら、山の方を見上げているご一家がいらっしゃった。
かなりしげしげとというか、じーっと遠くを見ていらっしゃる。
思わず「何をご覧になっているんですか?」と聞いてみたら、「今は雲で隠れちゃいましたが、あそこに雪渓が見えたんですよ。」というお返事だった。
それは見なくてはと、母と二人そこに立ち止まって雲が切れるのを待つ。
そこで待っていた5分くらいの間に雲が切れることはなかったけれど、何とか、薄くなった雲の向こう側に、雪渓を見ることができた。
肉眼ではかなりはっきり見分けることができたのに、写真ではかなりぼんやりとなってしまっている。人間の目って優秀だなと思う瞬間である。
教えていただいたおかげで、いいものを見ることができた。
コースタイム1時間のところを1時間40分かけて、栂池自然園のワタスゲ湿原一周を歩いた。
最後はコースの中で多く見かけたオオハナウドで締めとなった。
ビジターセンターに戻ってきたのが11時15分だったから、12時15分栂池高原発のバスに乗るには余裕だろうと思っていた。
ビジターセンターの近くにある村営の栂池山荘や栂池ヒュッテに寄り道してお土産を見たり、ソフトクリームを食べようかどうしようか迷ったりする。
しかも、ロープウエイからゴンドラに乗り換えるところで、ヤナギランが綺麗に咲いているのを見て、寄り道もした。
そんなことをしていたら、とんでもない、ゴンドラに乗り込んだときにはすでに12時近くになっていた。
帰りのゴンドラは、私たちのように焦っている人もいるためか、1台一組ではなく、詰め込めるだけ詰め込む方式である。私たちは、6人乗りのゴンドラに女性3人連れとご一緒することになった。お友達同士でいらしているらしい、母と同年配か少し下くらいの方々で、自然とおしゃべりすることになる。
「12時15分のバスに乗りたいんです−。」と言ったら、「お嬢さんがダッシュしてバスを止めておけばいいのよ。」と口々におっしゃる。
なるほどど実践したら、バスの運転手さんは親切で、ダッシュした私がお願いすると母が来るのを待っていてくださった。これを逃せば次のバスまで2時間近く待たなければならなかった。有り難い限りである。
バスで白馬八方バスターミナルまで戻り、そこから歩いてホテルに戻る。
ホテルでお昼ごはんを食べ、チェックアウト後も利用可の温泉で汗を流してから帰ろうという算段である。
13時過ぎ、良く歩いてお腹もぺこぺこである。
ホテル五龍館のレストランで、「幻のチーズ」を使ったピザとアイスコーヒーでランチにした。
どの辺が「幻」なのかは今ひとつよく判らなかったけれど、クセがなく、チーズの香りとちょっと焦げた香りがして美味しかった。
食休みをしてからフロントで預けていた荷物を受け取り、今度は温泉に向かう。
チェックアウト後の温泉利用が無料というのが嬉しい。
月曜の昼下がりという中途半端な時間だったせいか、温泉は今回も貸し切り状態である。
他に誰もいないならいいだろうと写真を撮り、ゆっくりと浸かる。
明るいうちから温泉なんて極楽だわと露天風呂に浸かっていたら、いきなり今日一番の強い雨が降り出した。いいタイミングである。
ここまでホテルを使い倒したのだからと、売店で職場へのお土産を買い、ホテルの送迎バスで白馬八方バスターミナルに送ってもらって、15時5分発の長野駅行きバスに乗り込んだ。
16時過ぎに長野駅に到着し、駅でお土産をさらに買い込み、新幹線で帰途についた。
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