大阪・京都旅行記2日目その1
2011年12月25日(日曜日)
昨日チェックインしたとき、翌朝は6時30分からのお勤めに参加していただくので15分前にはロビーに集合してくださいとお話があった。
目覚ましを5時30分にかけて、「寝坊したらどうしよう」と少し緊張していたら何のことはない、宿泊者は全員参加で、5時45分に起床を促す館内放送が入った。これなら寝過ごすことはあるまい。
6時にはお寺の鐘も鳴らされていた。
宿泊者全員20人弱が集合し、お坊さんの先導で金堂に向かう。「来たときの服装で参加できます。」という説明だったし、何しろまだ夜も明けきっていない暗い空である。コートを着込んだ。
正面の階段を回り込んだ地下から金堂に入る。靴を脱ぎ、中の階段を上がると、いつもお参りするところから見える広い畳敷きの空間が広がっていた。正座がきつい方には椅子も用意してありますということで、宿泊者ではない、でも朝のお勤めに参加を希望したのだろうお嬢さん方が既に椅子に座って待っていらした。
赤い毛氈に座り、ここでも「40分くらいありますし、足を崩して結構です。」と声かけがある。まあ大丈夫だろうと正座した。
次々とお坊さんが現れて所定の位置に座って行く。その「座につく」際にもお作法があるようだ。
何がきっかけだったか、先導役のお坊さんが決まっているようで、その方のリードで勤行が始まった。
20人弱の僧侶が一斉にお経を唱える。ところどころ、「一斉」ではないように感じたけれど、それは、モンゴルのホーミーの影響も受けているという発声のためにそう聞こえたのかも知れない。
全く素養のない私だけれど、しんと冷たい空気の中、朗々と響く声明を聞いていると、心地良いような厳粛なような、何ともいえない気持ちになる。思わず集中して、そのほんの少しの時間、無心になれたようにも思う。
途中、先導してくださっている方から「順番にご焼香ください。」という案内があって、お焼香をした以外は、声明に聞き入った。
お焼香の正しい作法がよく判らないので、私はかなりぞんざいにしてしまったように思う。せっかくの機会に教えていただけばよかったと思う。
40分くらいの勤行の後、一度外に出てお隣の明王殿に移動すると、僧侶の方々はもう既に座についてお経をあげていらした。
護摩の火が大きく焚かれている。室内で焚かれているのを見たのは初めてだ。
火の存在のせいか、こちらは15分くらいと短い時間だったけれど(でも、やはりお焼香させていただく時間はあった)、また違った緊張感を味わえた。
両方併せて1時間強がとても短く感じた。
そして、朝のお勤めに参加させていただいて、とてもいい体験ができたと感じる。終わりに、護摩の火で**した(覚えていない・・・。清めた、ではなかったような・・・。)お守りをいただいて、こちらも嬉しかった。
お勤めの後は、お庭と長谷川等伯の絵を案内していただける。7時30分にはなっていただろうか。
残念だったのは、工事中でお庭の池の水が全て抜かれていたことだ。座敷でお庭に向いて並んで座り、お茶とお菓子をいただきながら説明をお聞きした。
このお菓子は足が早くてすぐに湿気てしまうのでどうぞお食べください、と案内のお坊さんが言う。
このお菓子が軽くて美味しかったので売っていたら買って帰ろうと思ったら、やはり「足が早い」ためか智積院会館の売店に見当たらなかったのが残念である。
「記念」の封筒には、智積院の案内やお仏壇の拝み方の案内などが入っていた。
庭園は「利休好みの庭」と伝えられている。「利休好み」とは、「利休が好んだ」ということではなく「利休が好んだだろう」という意味だという。
智積院の「元」は、幼くして亡くなった鶴松の菩提を弔うために豊臣秀吉が建立した祥雲禅寺である。だとするとこのお寺を利休が作った可能性もあるのかなと思ったけれど、そういう訳ではないらしい。
お庭の一部は祥雲禅寺時代に造られたそうで、自然石と刈り込みによって造られている。
橋のたもとにある石は、僧侶が手を合わせている形に見えることから羅漢石と言われている。
お庭の山は中国の山を模しており、また、池も長江をイメージしている。
水が抜かれてしまっているので判らないけれど、池の底は常に水が濁るようにしてあって、長江を思わせるのと同時に、濁った水に植え込みが映り込む工夫ともなっている。つつじの花の季節には綺麗だろうと思うし、実際、訪れる人も多いという。
お庭を望むお部屋には、元々は長谷川久蔵の「桜図」と長谷川等伯の「楓図」、「松に立葵図」などの障壁画があったそうだ。しかし、池の端にあるお部屋ということで湿気による傷みが激しく、今はそれらの絵は収蔵庫に移して保管しているという。
その代わり、同じ位置にレプリカがあって、描かれた当時の様子が再現されている。「そうか、描かれたばかりの頃は、こんなに金ぴかだったのか」などと思う。「本物は後ほど見ていただきますので、よく覚えておいて見比べてみてください。」と促された。
お庭の後は、大書院の各お部屋にある襖絵などを拝見しつつ、収蔵庫に向かった。
智積院の講堂には、東京芸術大学の副学長であった田渕俊夫画伯から奉納された襖絵がある。日本の春夏秋冬をテーマに描かれた墨絵で、本当に墨だけで描かれ、しかも、いわゆる輪郭線は一切描かれていない。
そう聞くとやはり圧巻は「枝垂れ桜」の図でだ。
案内のお坊さん曰く「こちらの絵も墨だけで描かれていますが、薄桃色に見えるとおっしゃる方がいらっしゃいます。田渕先生は、それは日本人にとって桜の色形のイメージが非常に強いことからそう見えてくるのではないかとおっしゃっていました。今、薄桃色に見えるという方は非常に想像力豊かな方ということになりましょう。」と笑いを誘っていた。
また、杉林の朝と夕を描いて向かい合わせにその襖を置いたお部屋では、この二つの絵に描かれた杉林の枝振り等々は全く同じだという説明もあった。下絵をOHPで写して、それをなぞって描いたそうだ。
最後に訪れたのは収蔵庫である。
長谷川等伯・久蔵父子の描いた障壁画がここに収められている。
壁一面、長谷川等伯・久蔵父子の描いた障壁画というのは圧巻である。
松に立葵の図は、豊臣を象徴する松が、徳川を象徴する葵を従えている、見下ろしている、覆い被さるように圧倒しているという意味も込められていたのではないかというお話や、長谷川久蔵が若くして亡くなったのは当時ライバルだった狩野派による暗殺だったのではないかと言われるくらい等伯をしのぐ才能を謳われていた人だったというお話を聞くと、芸術と政治というのは、特に残るようなあるいは残された作品であればあるほど切り離せないものなのかも知れないと思う。
宿泊者限定という(なので、これは内緒です、というお話があったので具体的には書かないことにする)幻想的な様も拝見させていただいた。いいものを見た、という気持ちになる。
8時15分過ぎ、全員が集まって朝食になった。
寒い中を歩いたし、起き出してから3時間近く経つのでお腹はぺこぺこである。実は、お勤めに行く前にお茶を飲んで、お部屋にあったお菓子をいただいたけれど、それでもやっぱりお腹は空いていた。
温かくて美味しい湯豆腐がとても嬉しい。
あっという間にぺろりと全て平らげた。
お部屋に戻って荷造りをし、9時過ぎにチェックアウトする。
お支払いはチェックインのときに済んでいるので、鍵を返し、JR京都駅キャリーサービスの利用をお願いする。京都市内の宿泊施設で10時までに依頼すれば、14時から20時まで京都駅で荷物を受け取れるというサービスである。1個750円だ。
考えてみたら、この日のうちに自宅に帰るのなら、京都駅までキャリーサービスで送らず、自宅に宅急便で送っても同じくらいのお値段(750円)だったんじゃないかと思うけれど、とにかく身軽に出発できるのが魅力だ。
朝はまだ暗くて智積院の外観を全く見ていなかったので、まずは一通り歩いた。
天気予報は雪だったけれど、結構、青空が広がっている。
入口近くに拝観受付所があって、そこで御朱印をいただく。私のご朱印帳は伊勢神宮で買い求めたもので、最初の方は内宮や外宮の御朱印が並んでいる。受付の方がぱらぱらとめくって、「印と日付しかない」とボソっとおっしゃっていたのが可笑しかった。
やはり、お寺と神社では御朱印の意味するところが違うのかも知れない。
ついでに、この辺りで「ぜひ行っておいた方がいいところ」がありますかと尋ねたところ、京都はあり過ぎてお勧めと漠然と言われてもとても挙げられないとおっしゃる。
なるほど。
この辺りは豊臣秀吉縁のお寺が多いし、来年の大河ドラマの主人公平清盛に関連するお寺なども京都には多いから、これからはそういうところが流行るのではないかという。
「東福寺に行こうと思います。」と言うと、「それなら、この道を下って30分くらいで歩いて行けるよ。」と教えてくださった。
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