「ポポル・ヴフを探して」に行く
グアテマラ・マヤ文化協会「ポポル・ヴフを探して」
第1部 マヤの神話のお話とマリンバの紹介
講演「マヤの聖典、ポポル・ヴフ」 講師 半田昌之(たばこと塩の博物館)
第2部 コンサートと朗読
出演 峰ゆうこ/川名千鶴子
演奏 青山道子(マリンバ)/フルート(後藤玲子)
菅原早由吏(ファゴット)/黒澤百合(パーカッション&マリンバ)
甲斐元子(パーカッション)
朗読監修 林屋永吉
講演日 2012年10月3日(水)午後7時
場所 文京シビックホール 小ホール
グアテマラ・マヤ文化協会主催の「ポポル・ヴフを探して」というイベントに行って来た。
グアテマラ・マヤ文化協会ってどんなところなんだろうと少々怪しんだりもしたのだけれど、グアテマラ駐日大使を名誉会長にいただき、協会の所在地もグアテマラ大使館内というかなりオフィシャルな存在らしい。
一方、法人会員は原則としておらず、個人会員のみ100人程度のアットホームな運営がされているようだ。
イベントの始めに、副会長さんが挨拶すると同時に協会への入会勧誘を兼ねて紹介していた。
副会長さんの挨拶、グアテマラ大使の挨拶に続いて、簡単なグアテマラの紹介が行われ、併せて、グアテマラで使われているというマリンバの紹介もあった。
グアテマラからマリンバを持ち出すには政府の許可が必要だという話で、それはマリンバという楽器一般についてそうなのか、それとも古いもの、伝統的な形のものだけのことなのか、その辺りはよく判らなかった。
とにかく、グアテマラからはるばるやってきたというそのマリンバは、その後のコンサートで使われたマリンバの2/3程度の長さである。通常は2mほど(だと思う)のそのマリンバを3人で演奏するというからかなりキチキチではなかろうか。そして、3人がそれぞれ演奏に使う場所は決まっており、その場所に併せてバチ(という名前で正しいかどうか不明だが)の種類も変わるのだそうだ。
また、通常のマリンバはピアノなどと同じように白鍵と白鍵の間に黒鍵があるものらしのだけれど、グアテマラのマリンバは白鍵の真上に黒鍵が配置されているという。
少しだけ演奏されたそのマリンバは、少しくぐもっており、この日は雨が降っていたこともあって調弦が難しいらしく、音が二重に聞こえてくるような状態だったのが惜しい。
その後、たばこと塩の博物館の半田昌之氏から、ポポリ・ヴフについての講演があった。
いわば、第2部の朗読のための解説編である。
このお話のなかで一番気になったのは、マヤ絵文書が世界で「3」点しか残っていないという説明があったところである。確か記憶では4点だったようなと思いつつ、芝崎みゆき著「マヤ・アステカ不思議大全」を見てみたところ、やはり「4」点となっている。
講演では、マヤ絵文書は、マドリード、パリ、ドレスデンにあるということだったので、残りの1つは存在しない、あるいは偽物であったとされたのかも知れない。
ちなみに、このマドリードのアメリカ博物館にあるマヤ絵文書に、タバコを吸っている人の絵が描かれていることから、「たばこと塩の博物館」の半田氏とマヤとの関わりが出ているらしい。
「それだけのことなんですけどね」というのがご本人の弁である。
マヤ絵文書は、皮あるいは植物から作られた紙に石膏を塗ったものに描かれていたのだそうだ。両面ぎっしり書かれているらしい。
世界には3(ないし4)しか残っていないのは、スペイン人が布教のために焚書してしまったからだそうだ。
しかし、そのような状態でも、マヤの神話である「ポポル・ヴフ」が残っていることには、理由というか経緯がある。
ポポル・ヴフは、キチェ族の創世神話で、スペインの侵攻後の1550年頃、アルファベット(ローマ字、という言い方もしていた)を学んだキチェの人が、マヤの言葉をアルファベットで書き留めたものだそうだ。
その後、しばらくこの文書は埋もれていたけれど、1700年頃、フランシスコ・ヒメネス神父がチチナステナンゴのサン・トマス大聖堂で発見し、写本を作成するとともにスペイン語訳を行ったという。
現在、残っているのはこのヒメネス神父が作成した写本のみで、ヒメネス神父が移した元の文書は失われてしまっているという。
1947年、グアテマラのアンドレアン・レシーノス博士が新たにスペイン語訳を行うと共に註釈を作成し、この新訳版を4年かけて日本語に訳したのが、グアテマラ・マヤ文化協会長でもある林屋永吉氏ということだ。
日本語版の出版には三島由紀夫らも支援を行い、1961年に中央公論から出版、1971年にはディエゴ・リベラが描いた挿絵も含んだ豪華版が再版され、現在普通に入手できる文庫にもこの挿絵のいくつかがモノクロではあるけれど収録されているという。
ロビーでこの文庫も売っていたのだけれど、ちょっと迷って買わなかった。
「ポポル・ヴフ」というのは、「共通の書」というくらいの意味らしい。
元本が書かれたのがスペイン侵攻後であることからキリスト教の影響がすでに入っているという説もあるし、ノアの洪水との類似性も窺えるが、全体としてはマヤ独自の宇宙観が感じられる内容になっているそうだ。
マヤ独自の宇宙観というのは、大雑把にいって、アニミズムであり、循環思想であり、人間も自然の一部であるという考え方であるといえるという。
その他、特徴的な考え方として、唯一神ではなく「神々」という考えであり、天と地・光と闇・生と死など二元性で語られていること、が挙げられるのだそうだ。
というよりも、そういう特徴があると頭の片隅に入れてこの後の朗読を聞くとよいでしょう、というお話だった。
また、マヤの神々は、神々を崇め奉る存在として、また、森の番人として人間を作ったとされているらしい。
最初は泥から作って失敗し、次に木から作って失敗し(そして、その失敗作の生き残りが猿となり)、最後にとうもろこしから作ってやっと成功したのだそうだ。
とうもろこしの地位の高さがよく判る。大地よりも森よりもとうもろこしである。
マヤでは森は四角くて、その四隅に柱が立っていると考えられているらしい。そして、東西南北にそれぞれ赤・黒・白・黄色の4色が当てはめられており、この4色はいずれも「とうもろこしの色」であるそうだ。
真ん中は緑とされていて、それは葉っぱの色ではなく、翡翠だろうということだった。
翡翠と並ぶとうもろこし、である。
話は少し戻って「循環思想」ということだけれど、マヤ暦がまさにこの「循環」の思想で作られているという。
主に儀式に使われた13日*20ヶ月の260日暦と、20日*18ヶ月+5日(凶月)の365日の暦を併用し、この2つを丁度干支のように組み合わせた長期暦が5125年ぶりに2012年12月12日に「一巡り」するということで、話題になっている。
ちょうど、今年、グアテマラ北部で長期暦で最古(8c頃)のものが発見されたそうなのだけれど、そのどこにも「世界は終わる」とは書いておらず、次の日になればまた次の暦が始まる、というのが正しいらしい。
概ね、こういう感じのお話だったと思う。
10分間の休憩後、ポポル・ヴフの冒頭から人間を作り出すまでの物語の朗読と、マリンバ・フルート・ファゴットの演奏のステージがあった。
これは、なかなか楽しかった。
ついうっかり、朗読の言葉を聞き流してしまったりもしたけれど、それはそれで、雰囲気を味わうというものである。
45分くらいのコンサートの最後には、林屋会長へのハッピーバースデーのプレゼントもあり(翌10月4日、御歳93歳になられるということだ)、至極和やかにイベントは終了したのだった。
あいにくのお天気だったけれど、会場には150〜200人くらいの人が集まり、盛況だったと言えると思う。私も、参加無料でかなり楽しませてもらった。
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