2012年7月27日(金曜日)
2日目の朝食は6時50分に指定されている。
逆算して5時30分に目覚まし(母の携帯電話である)をかけ、身支度をして朝風呂に向かった。母に聞くと「内風呂がいい」と言う。
行ってみるとまたもや貸し切り状態だ。のんびりじっくり浸かっていたいところだけれど、お湯も熱めだし、本当にもの凄く効く温泉であっという間に温まり、のぼせたようになってしまうので、15分ほどで切り上げる。何だか勿体ないような気がしてしまうのは貧乏性の故だろう。
一休みしてから朝食である。
ビュッフェではなく、銘々に和食が用意される。高級なお弁当というのか、箱膳というのか、その中におかず各種が用意され、ごはんとお味噌汁は熱々のものが供される。お豆腐は自家製ですという案内があったと思う。
美味しい朝食で、もちろん完食した。
部屋に戻る途中、宿のお土産物屋で職場へのお土産を買い込んだ。この先にまだ買う機会は多々あると思うけれど、「買わなくちゃいけない」と思っているのが面倒だ。
同じツアーの方もいらっしゃって「お父さんも昔は職場へのお土産を買っていたわ。」と笑っていらした。
ロビーでツアーバスを待っている間に、宿の写真を撮る。
気持ちのいい宿だったし、こんな立派な外観をしていたのかと改めて驚いた。
できれば、夕日が綺麗に見える季節、見える日にまた宿泊したい。
8時過ぎにやってきたバスに乗り込むと、今日の席はちょうど真ん中くらいだ。すぐに写真を撮りたがる私をうるさがって母が窓際を譲ってくれる。申し訳ない。
本日最初の目的地である元滝伏流水に向かう途中、このツアーで初めて鳥海山を拝むことができた。
車内はもちろん盛り上がる。お天気がよくて本当に良かった!
鳥海山は標高2236m(バスガイドさんが時々クイズに出してくれたけれど、結局、帰るまでに覚えることができずに今も調べた)で、これから行く元滝伏流水の水源でもある。
出羽富士とも呼ばれており、確かに周りに山がなく、突然にょきっと現れる感じが富士山っぽい。
こういう標高に差がないところでも棚田というのか判らないけれど、僅かに段差のついた田んぼが広がっている風景も美しい。もちろん、この棚田に張られた水も鳥海山からの雪解け水である。
9時15分くらいに元滝伏流水の駐車場に到着した。
昨日のうちにバスガイドさんにお勧めされたので、みんな、手に手にペットボトルを持っている。ここのお水を汲んで、次に行く獅子が鼻湿原で水分補給をするといいですよ、美味しいお水です、というお話である。
川沿いの一本道を進む。日光が木々に遮られるし、水辺ということもあって、思ったよりも暑くない。
バスガイドさんがぽっくりぽっくり長靴を履いて歩いている。聞いてみれば、川に入って水を汲むためだそうだ。なるほど確かに、伏流水とはいえ、流れの速い上流で汲んだ方が安心安全である。
駐車場からゆっくり歩いて10分足らずで元滝伏流水に到着した。
スポーツサンダルを履いていた私は、この際と川にちょっとだけ入って、まずは水を飲んだ。確か水温7度に保たれているという話だったと思う。その冷たさだけでも美味しい。
もちろん、ペットボトルにも水を汲む。
水辺というのはどうしてこんなに落ち着いて、こんなに涼しいのだろうと思う。満喫だ。
本日のメインイベントである獅子が鼻湿原へは、ここからバスで15分ほどである。
獅子が鼻湿原でもガイドさんが2名ついてくださり、またもや2班に分けられた。座席でグループ分けすることに懲りたらしく、今日は「今からお名前を呼ぶ方は1班です。」というやり方だった。ちょっと可笑しい。
お手洗いを済ませ、遊歩道の入口に何本も用意されていた杖代わりの枝を母に持つよう勧めて、いざ出発である。
この湿原の奥にいる、「あがりこ大王」と呼ばれる奇形ブナを見に行くハイキングだ。
こちらのガイドさんは拡声器を持っていて、少なくとも声は聞こえる。声が聞こえると、大体あの辺で何の説明をしているということが判るし、昨日宿でご一緒した方々が概ね最後尾にいる私を気遣って指さして教えてくださり(お手数をおかけして申し訳ないけれど有難い)、昨日よりは「ガイド付き」を満喫することができる。
10時半頃にスタートした。
例えば、遊歩道の入口近くにあった木は、遊歩道側から見ると左の写真のようになっている。私が木に近づいたとき、「凄い凄い。」と興奮している方がいらしたけれど、何のことやらサッパリだ。
首を傾げていると、「裏に回れば判るから。早く早く。」と声をかけていただいた。言われたとおりに裏に回ってみると、幹というか枝の一部が太い幹に貫通していることが判った。
これは凄い。
こんな奇形の木がこれからたくさん現れるという。
ブナは薪にするくらいしか使い道がないとされていたそうだ。
この辺りでは炭焼きが行われていて、積もった雪の上に出ている幹を斬っては炭焼きに利用していた結果、その斬った部分がコブ状になり、そこから枝を出し、ということが繰り返され、奇形ブナがあちこちに見られるようになったらしい。
確かに、コブがついている高さはほぼ一定である。
スタートから20分ほどで、赤川という小さな川にかかる木橋に到着した。
人のいない写真を撮れるのは、最後尾を歩いていて、かつ、すぐ前を歩いている人からこれだけ遅れているからである。こういうことをしているのだから、ガイドさんの説明が聞けないと文句を言えた立場ではない。
それはともかくとして、ここからいよいよブナの森に突入である。
日射しを遮ってくれる木々の間を歩けるのが有り難い。
多分、説明を受けたお花の数々だけれど、メモを取っていなかったので、すっかりさっぱり忘れている。
唯一、「ヌスットハギ」というお花の名前だけ、あまりにも意外というかインパクトがあったので覚えている。多分このピンクの花だったと思う。
どうしてこんな可憐のお花にそんな名前がついたのだろう。
鳥海マリモに行く道と、あがりこ大王に行く道との分岐点で一休みとなった。
何かの拍子にここに来るときに列の真ん中辺りを歩いていたら、ガイドのおじさんに「最後尾の目印にしていた。」と言われ、それは最後を歩けと言っていますねと理解した。
何だかなぁと思わなくもないけれど、どうみてもこのツアーで下から2番目の若さ(決して私自身が若い訳ではない)だから仕方がない。どうして「一番若い」訳ではないのかというと、おばあさまと孫娘という二人連れの方がいらしたからである。
森の中を歩いているとはいえ結構汗をかいている。元滝伏流水で汲んだ水を飲み、ちょうどリュックのポケットに入れておいた干し梅を食べる。しょっぱさと酸っぱさがしみ入る。
今は鳥海マリモを見られる場所に行くのに立派な木の階段がついているけれど、その階段が付けられる前は、この崖の道といえば道かも知れない、というようなルートを降りるしかなかったそうだ。
そして、階段が付けられたのは、皇太子殿下(だったと思う)がいらっしゃることになったからだと言う。「感謝してくださいね。」というガイドさんの台詞が可笑しい。
大人の事情という奴ですね、と思う。
岩肌に水苔が生えているように見えている箇所も、実はマリモである。その証拠に(写真ではもちろん判らないけれど)水の流れに乗ってこの茶色い部分全体がぷかぷか上下している。
そして、右の写真が鳥海マリモである。
イメージとして、清流に緑色のマリモだけが浮いているところを想像するし、実際にそういう写真が多く出回っているけれど、残念ながら現状ではそういう状況を見ることができない。天然記念物に指定され、マリモの周りに落ちている枯れ葉等々を掃除することができなくなってしまったという。
天然記念物に指定されるのも善し悪しだなと思った。
この奥にもハイキングコースが続いているけれど、このツアーではこの水門まで行って引き返した。
ハイキングを2時間半というのは結構長い時間だなと思っていたら、実際に歩いてみると、ずっと歩いているばかりではなく立ち止まることも多いし、全く長く感じない。むしろ時間が足りないくらいである。
先ほど降りて来た階段をえっちらおっちら上って分岐点まで引き返し、そこからあがりこ大王方面に向かった。
奥に見えているブナが「あがりこ女王」である。
そう思って見ると、ブナの木のコブの感じが女性的だ、という気もする。
間違いなく説明は受けているけれど、歩きつつ写真を撮りつつメモを取るのは難しい。
写真を見れば思い出すだろうと撮りまくっても、私の場合、実際のところそれで記憶が喚起されることはまずない。困ったものだ。
困るというか、情けない。
遊歩道のすぐ側にあって近寄れ、そのフォルムも独特でインパクトが強かった「燭台のブナ」はよく覚えている。
腕を曲げたようなところが「燭台」っぽい。燭台というよりは、力こぶのようにも見える。
けれど、炭焼き窯の方は実は見た記憶がない。写真を撮っているのだから見ていない筈はないけれど、どうも記憶が曖昧である。燭台のブナのインパクトにまだ捕まっていたのだろう。
炭焼き窯を過ぎれば、もう、あがりこ大王まではすぐである。
あがりこ大王の周りには木道が巡らせてある。何周もぐるぐるしながら見入る。
あがりこ大王は、奇形ブナとしては日本で最大である。
右の写真の奥にいる人と比べれば、その大きさの見当が付く。
できれば、夜道でこんな木には出会いたくない。
あがりこ大王のこの部分は、確か何かの「見立て」で説明も受けたけれど、やっぱり覚えていないところが情けない。
万歳をしている人だったろうか。
これだけコブコブしていると、色々なものに見えてくる。
ハイキングコースに入る前、ガイドさんに「ここから鳥海山は見えないんですか?」と尋ねたところ、「1箇所だけ、見えるところがあります。」というお話だった。
その「1箇所」がまさにここで、あがりこ大王を巡る木道の一部から、木々の間を透かすようにして鳥海山を望むことができる。
おぉ! と思って、しばし見とれた。何となく嬉しい。
ここからは、一気にハイキングコース入口を目指して引き返す。ほとんど寄り道をしなかったこともあって、40分くらいでハイキングコース入口に戻ることができた。
戻ったところで保存のための寄付(といっても本当に気持ちだけだ)を箱に入れ、お手洗いを借りる。
もう一つの班はまだ戻って来ていないようで、添乗員さんお勧めのアイスクリームを食べた。バニラとイチゴがあり、母と一つずつ買って両方味見である。手作りのアイスクリームは美味しい。イチゴ味が本物なところがやはりポイントである。
風に吹かれてのんびりとアイスクリームで涼んだ。
本日の予定は、ほぼここで終了だ。
あとは、お昼ごはんを食べて、今日の宿に向かうだけである。しみじみと移動距離の長いツアーだ。
30分ほど車を走らせた13時30分過ぎに、本日の昼食場所である象潟シーサイドホテルに到着した。
オプショナルで焼き魚定食を頼んでいた人が半分、自由昼食を選んだ人が半分というところだ。
焼き魚定食はバンケットのようなところに用意されていた。お隣では何やら集会が開催されており、そのマイクの音がそのまま聞こえて今ひとつ落ち着かない。歩いて疲れていたせいか食欲もあまりなく、そそくさと食べ終えた。
暑そうで外に出る気力がない。
しかし、このホテルは本当にシーサイドに建っていて、砂浜を散歩された方が「海風が吹いていて気持ち良かったわよ。」とおっしゃっていた。
ホテルの入口辺りをうろうろしたら、芭蕉の石像と、「奥の細道北端の地」という看板と歌碑が建っていた。達筆すぎて歌碑の方は読めない。後で調べてみたら、こういう句だった。
象潟や 雨に西施が ねぶの花
14時20分に出発した後、しばらくは田園地帯の向こうに見える鳥海山を堪能した。
雪渓(だと思う)が残っているのも見える。
風力発電の風車と鳥海山とか、川と鳥海山とか、写真に収めるべく奮闘したけれど、如何せん、走っているバスの中からでは限界がある。
16時前に、最上川リバーポートという、最上川舟下りの起点となっている場所でトイレ休憩となった。
最上川は山形県内しか流れていませんという話はバスガイドさんから何回も聞いている。秋田県から山形県に戻ってきたということだ。なお、本日の宿は宮城県である。
最上川リバーポートには大きなお土産物屋さんが併設されていて、さくらんぼが丸ごと1個入ったゼリーを凍らせて試食させていただいた。これが暑い日には美味しくて、我が家も含め、結構みなさんお買い上げになっていた。商売上手とはこのことである。
ひたすらバスは走り、最後のトイレ休憩は鳴子峡を見下ろすレストハウスだった。
現在のところ、遊歩道は通行止めになっており、従ってレストハウスも閉まっている。本当にお手洗いを借りただけだ。
添乗員さんの見立てでは、紅葉の時期までには再開されるのではないかということだった。
ぜひ、その時期に来てみたい。
本日の宿はホテルオニコウベである。
ガイドさんによると、いっときは「鳴子温泉郷」ということになっていたけれど、それにしてはちょっと遠すぎやしませんかということになり、「オニコウベ温泉」になったそうだ。
スキー場が目の前にあるスキーリゾートホテルで、山の緑のど真ん中にあるといった感じである。
こちらは洋室だ。
18時くらいに到着し、19時からの夕食に間に合うよう、早速、大浴場に向かった。
みなさん同じことを考えてバス2台分のツアー客が殺到したらしく、大混雑である。脱衣場ではカゴの置き場もないくらいだったし、カランが空くのを列になって待つことになった。
露天風呂がないのは残念だったけれど、ここのお湯もとても良くて、あっという間に温まった。混雑もしていたし、正味15分も浸かっていなかったと思う。
夕食はレストランで、とにかく一気に供された。
お風呂上がりだし、母と二人で生ビールを頼み、ごくごく飲みつつお料理をいただく。
和洋折衷というか、まぜこぜといった感のあるメニューで、優雅さはないもののこれが結構美味しかった。
メニューは以下のとおりである。
旬のオードブル
ソーセージシュークルトのサラダ
季節の天ぷら
鮮魚と高原野菜のオーブン焼きトマトソース
特豚肉と季節野菜の陶板焼き 焙煎胡麻だれ
ごはん お味噌汁 お新香
プチデザート
売店に寄ってから部屋に戻ってもまだ20時だった。
テレビを見ながら食休みし、早々に眠そうな母を置いてもう1回温泉に行く。クリスマス仕様のライトアップがされているお庭を見つつ、今度は5〜6人と静かな温泉を堪能する。
数日こちらのホテルに滞在しているという方がいらして、鳴子温泉郷に行ったり、のんびり過ごしているとおっしゃる。明日行く予定の大噴湯のことなど教えていただいた。
この日も規則正しく健康的に、22時には就寝した。
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