甲府旅行記の入口を作る
ここは母と出かけた甲府旅行記への入口である。
以下の日程の日付部分をクリックすると、その日の旅行記に飛べるようになっている。
この1泊2日の旅行にかかった費用は、一人分約21000円だった。ここには、交通費、宿泊費、食事代、入館料が含まれているが、お土産代(ぶどう狩りも含む)は含まれていない。
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この1泊2日の旅行にかかった費用は、一人分約21000円だった。ここには、交通費、宿泊費、食事代、入館料が含まれているが、お土産代(ぶどう狩りも含む)は含まれていない。
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2012年8月19日(日曜日)
朝、目が覚めら6時半過ぎだった。
母が「私はもう1時間以上前から起きていた。」と言う。昨夜は母のいびきが気になって眠れなかったのだからお相子である。
窓を開けるといいお天気で、目の前の山(といってもそれほど高くはない)から上がった太陽が見えた。がんばって早起きすれば日の出を見られたかも知れない。惜しかった。
7時過ぎに大浴場に向かった。私は2度目、母は初めてである。
「こっちのお風呂の方が広いね。」と母はご満悦だ。再びほぼ貸切状態で嬉しい。朝の風は涼しく、日差しもそれほど強くなく、のんびりと「朝の温泉」を楽しむ。
確か、こちらのお風呂が「石の湯」で、昨日、宿に着いた後で入ったお風呂が「花の湯」である。
ホームページでは大小四つの露天風呂と書いてあったけれど、「花の湯」には露天風呂は一つだったと思う。見逃したんだろうか。
朝食は朝食会場に赴く。「用意ができました。」という電話に呼ばれて向かうと、結構たくさんの人がお食事をされていて驚いた。
赤ちゃんもいる。
昨日からこちら、館内もお部屋もとても静かで、こんなにたくさんの人が泊まっているとは思わなかった。きっと防音がいいのだろう。
ごはんやおかずはすでにテーブルにセットされている。
柳屋の朝食のポイントは「お漬物のバイキング」だ。日本各地のお漬物が10種類以上並んでいて、好きなだけいただくことができる。
納豆やサラダも用意されている。
お味噌汁も、月替わりの蜆のお味噌汁とほうとうがあり、その他、蕎麦粥なども大きな鉄鍋で並んでいる。少し離れたテーブルに生卵が置かれていて、かなり惹かれたけれどごはんを2膳食べたくなってしまうので自粛する。
牛乳とぶどうジュースもある。
和食と洋食と両方が用意されているときは洋食を選んでしまう私だけれど、こういう和食バイキングも楽しい。
たくさんいただいた。
母は意外とせっかちである。
朝食後、のんびりぼんやり、デッキのテーブルでタオルや手ぬぐいを乾かしていた都合もあって(お庭の景観を著しく損ねていたら申し訳ない)だらだらしていたら、母はあっという間にお出かけモードになっている。
9時半くらいにチェックアウトした。
併せて、フロントのお姉さんにお勧めのぶどう狩りをお聞きしたら、宿と提携しているというぶどう園を教えてくださった。しかし、何となく説明がおかしい。話をしているうちに、お姉さんは車移動が前提で紹介してくれたことが判った。
改めて「バスと電車とタクシーで移動するとして、お勧めのぶどう園はありますか?」とお聞きすると、「早川園」というぶどう園を紹介してくださった。20分後くらいに来るバスがぶどう園に近いかいテラスに直行するという。
女将さんを始めとする方々がわざわざ外に出て見送ってくださる中、宿を後にし、バス停に向かった。
お天気がよければ、大体30分くらいで登れるという湯村山に登って富士山を眺めたいところだけれど、富士山があるだろう辺りはもくもくとした入道雲が湧いていて、とても見えそうにない。
バス停に行くと、お姉さんが教えてくれたバスがない。よくよく時刻表を見てみると「24年8月13日改正」と書いてある。きっと、従業員の方々も車通勤でバスはあまり利用しないのだろう。
甲府駅に行くバスがすぐ来たので予定を変更し、駅に向かった。
駅の観光案内所で「ぶどう狩りがしたい。」「ここから行きやすい、いいぶどう園を教えて欲しい。」と質問をしたところ、係のお姉さんが愛宕園を紹介してくださった。
このぶどう園は、甲府駅から徒歩15分ほどだし(道順も教えてくれた)、15分歩くのが大変なら身延線で金手駅まで行けば徒歩3分くらいだという。
お腹を空かせるためにも暑いけど歩いて行くかと思っていると、電話すればもし手すきだったらお迎えにも来てもらえますという。それは有難い。
愛宕園のちらしをもらい、コインロッカーに大きな荷物を預け(昨日の反省に基づいて、ショルダーバッグをエコバッグに入れて、タオルなども入れて持ち歩くことにした)、準備万端である。
それにしても暑かったので、ダメ元で電話を入れてみると、お迎えに来てくださるという。北口に出て指定された場所で「どうやったらお迎えが来たって判るんだろう。」と言い合いつつ待っていると、「愛宕園」の看板を掲げたおじさんがいらした。
判りやすい。
バンに乗せてもらって、ぶどう狩りに向かった。
「今年のぶどうは甘いですよ。」「今は巨峰が旬ですよ。」と説明を受ける。昨日のタクシーの運転手さんの言葉を思い出して「デラウエアは?」と聞いたところ「そろそろ終わりだね。」という回答だ。
11時前くらいに到着した愛宕園は、「金手園」というぶどう園のお隣だった。
おじさんの運転するバンがいきなり「金手園」と書かれたところに入って行こうとするので驚く。すぐそのお隣にある「愛宕園」に車を入れるために切り返しをするためだと分かった。
愛宕園は、金手駅を見下ろす丘というか坂の中腹にあって、ぶどう畑が見上げる限り広がっていた。
この「見上げるような急坂」がポイントで、日当たりと水はけのよいことがぶどう栽培には必要らしい。
駅の観光案内所でもらったちらしに入場料と試食が無料になるチケットが付いていて、そちらを利用して、用意されていたテーブルにつき、ぶどう5種類を試食させていただいた。
すでに忘れているところが情けないけれど、ピオーネ、スマイル、ロザキの3つは確かで、あと、スマイルと似た見た目のぶどうと、グリーンでマスカットよりは小粒で緑が濃くて味がデラウエアに似ているぶどうと5種類あった。
数粒ずつ食べて、これで結構、満足感がある。
ここで食べ放題で食べるよりは、ぶどう狩りして送ってもらおうと母と相談が一致し、おじさんにぶどう畑に連れて行ってもらった。
そして、ここでもぶどう園のおばさまに「母子なの?」と驚かれ、「姉妹かと思った。」と言われて母はご満悦、私はショックである。
しつこいようだが、一体私はいくつに見られていたのだろう・・・。
藤稔という品種が愛宕園の一番の「売り」のようだ。
巨峰よりも粒が大きく、房が大きく、色も味も濃い。栽培しているところも少なく、希少品である。
この「藤稔」も食べたいと母が言い、私がマスカット系のぶどうを好きなことを知っている母がそれもと言い、巨峰、スマイル、シャインマスカット、藤稔の4種類をお願いした。
最初に行った畑は「巨峰」の畑である。まず一気に上の方まで行ってしまおうということだろう。
巨峰は試食になかったので、おじさんが一粒ずつ取って味見させてくれた。意外とさっぱりしている。もっと濃厚なイメージがあったのでちょっと意外である。
粒が揃っていて、傷んでいたり内側に育ちきっていない粒があったりしない房が良い房だそうだ。
何だか楽しそうにしているので、ぶどうの収穫は母にお任せした。下の方を掴むのではなく手のひらで受け止めるように支えて切るのがポイントである。
巨峰とスマイルは2房ずつ、シャインマスカットと藤稔を1房ずつの6房を選んだ。
母はもっと選びたそうだったけれど、妹母子がいるとはいえ、妹は食べるのが面倒くさい果物にはなかなか手を伸ばさないし、甥っ子はぶどうはまだ食べられないだろう。ぶどうは1週間くらいなら大丈夫というけれど、母と私の二人で6房1週間以内というのはなかなかハードルが高い。
「うち、そんな大家族じゃないんだから!」と思い留まっていただいた。
でも、次から次へと「これも!」とやりたくなる気持ちはよく判る。
これだけたくさんのぶどうを持ち帰るのは大変なので、送ってもらうことにした。ぶどうが全部で7kg強(だったと思う)で4500円、箱代と送料を足して5600円だった。
どうしてこんなことを細かく書いているかというと、この後、甲府駅前のスーパー店頭で売られていた藤稔が一房5000円で売られていて驚いたからだ。私達が選んだ藤稔よりも房は立派だったけれど、それにしても! とびっくりした。
高台にある愛宕園からの見晴らしは美しい。
甲府は山に囲まれた盆地に位置するので、どっちを見ても山が見える。
富士山が見られたら嬉しいけれど、残念ながら、完全に雲に隠れてしまっている。
山に囲まれた甲府の、南北それぞれの側から入道雲がもくもくと育ちつつあり、ぶどう園のおじさんは「この雲が上でぶつかると雨が降るんだよ。今日も夕立だな。」とおっしゃる。
帰りもおじさんに甲府駅北口まで送っていただいた。
その車中で、「甲府の美味しいもの」として奥藤というお店の鳥モツをお勧めしていただいた。
宿の特別メニューにも載っていて気になっていたのでお聞きしたら、B-1グランプリで優勝してから一気に広まったメニューだそうだ。
調べてみると、2010年9月に開催された厚木大会で、「みなさまの縁をとりもつ隊」の名前で優勝していた。
おじさん曰く「優勝以来、あっちこっちで出すようになったが、やっぱり元祖じゃなくちゃ。」ということだ。
このお話を教えてもらっていたとき、実は私はこの「鳥モツ」というのは持ち帰りだと思っていた。真空パックになった鳥モツが売られているイメージである。
それで、調理法を尋ねたつもりで「どうやって食べるんですか?」「え? 箸で食べるんだろ。」というマヌケかつ微笑ましい会話をしてしまった。
お店は甲府駅南口の駅前、すぐ判るところにあるという。今日のランチは決まりである。
まだ11時半過ぎである。お昼ごはんを食べる前に、先ほどお迎えを待っているときに気になっていた、駅前広場にあるちょっといい感じの建物に近づいてみた。
すると、そこは甲府市藤村記念館で、入館無料だという。藤村という字面を見て島崎藤村か? と安直に思ったらそうではなく、初代山梨県知事の藤村紫朗氏にちなんでそう呼ばれているらしい。
元々は小学校として建てられた、藤村知事が積極的に推奨して「藤村式」と呼ばれるようになった擬洋風建築である。現在は、国の重要文化財の指定を受けている。
中に入ると、元々この建物が置かれていたという武田神社の模型があったり、ガイドブックなどが置かれた団欒スペースのような場所があったりする。
写真展が開催されているという2階(下足禁止である)に上がると、日本全国の擬洋風建築(恐らく重要文化財等に指定されているもの)の写真が並べられていた。私は開智学校くらいしか知らなかったけれど、結構、あちこちに散らばっている。
また、当時の教室の様子が再現されていて、小さな木の机に木の椅子が並んでいた。座ってみる。椅子が壊れなくて幸いである。
特に「これ」といったものがある訳ではないのに、なかなか気持ちのよい空間だった。
入口のところではいい香りがしていて、帰り際に立ち止まったら奥にいた人が出てきてくださった。売られていたのはバラのポプリで入浴用として販売しているという。
お花の形を保ったものは1回分で200円、花びらにしたものは3回分でやはり200円、この藤村記念館の周りで咲いているバラの花から作ったそうだ。
あまりにもいい香りをさせていたので、花びらのものを一つ買い求めた。
人気店だというから早めの方ががいいだろう。
甲府駅南口に出て、奥藤を探した。ぶどう園のおじさんの口ぶりだと「南口に出たらすぐ目の前にある」感じだったけれど、店が甲府駅の方を向いている訳ではなく、駅前ロータリーから駅を背にまっすぐ伸びる道に面していたので少し探した。
「満席まであと一歩」という状況で滑り込めた。ラッキーである。
メニューを検討し、蕎麦が2枚付いてくる清流生わさびそばを頼んでつゆを一つ追加してもらい、それと鳥モツ煮を一皿頼んだ。
鳥モツ煮は、「モツ煮」というよりは、照り焼きという感じだ。
甘辛く、ビールが欲しくなる味である。なかなか美味しい。私も母も臓物系はどちらかというと苦手だけれど、こちらはぺろりと美味しくいただいた。
お蕎麦も美味しい。生わさびをするのに忙しく(多分、おろし金にはちゃんとサメ皮が張ってあったと思う)、写真を撮り忘れたのが痛恨事だ。
お会計のとき、母に命じられてレジで売られていた「ばかうけ」も一緒に購入した。妹へのお土産である。
13時29分甲府始発の特急かいじがあり、駅員さんに「自由席で十分座れます。」と太鼓判を押してもらってそちらで帰ることにした。電車の時間まではお土産探しである。
お土産購入は、母の独壇場である。母の年代の女性が旅先でお土産にかける情熱というのはかなり凄いと思う。お土産を買うために来たんじゃないかと思うくらいだ。
これだけは外せないだろう桔梗屋の信玄餅に「プレミアム」「吟造り」と銘打ったバージョンがあることを発見し、賞味期限短さをものともせず8個入りを購入していた。
駅の北口と南口をうろうろしているときから母が気にしていたのが印傳のお財布である。
印傳屋上原勇七というお店のもので、中でも紫色で大き目のお花が描かれたちょっと変わったデザインのお財布に心惹かれているらしい。
確か母と旅行に行ったとき、指宿だったかで母がお財布を買うところを目撃している私は「またお財布?」と思ったけれど、持ってみると軽いし、なかなか使いやすそうである。
母の誕生日プレゼントには少し早すぎだろうと心の中で思い定めた頃、母はさっさと自分で購入していた。
冷凍で売られていた八ヶ岳高原生シュークリームを帰りの車内のおやつに購入し、雲に隠れて見えない富士山を探しつつ、甲府を後にした。
17時くらいに家に帰りつくと知らせてあったせいか、母と二人、少し早めに家に帰ったときには妹母子は出かけていて家は空っぽだった。
甲府旅行記1日目 <-
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2012年8月18日(土曜日)
1週間前から我が家に滞在している妹母子に何故か見送られ、9時30分過ぎに母と家を出た。
最初は、お昼過ぎに到着する特急に乗って行き、甲府駅の近くでお昼ごはんを食べようと思っていた。しかし、えきねっとで35%引きで買える特急券を発見し、計画変更した。これだから、旅行は早めの準備が肝心だ。
11時29分新宿発の特急かいじは、甲府駅着が13時10分だ。新宿のデパ地下でお弁当を買い込み電車の中でお昼ごはんを食べることにした。
デパ地下に行き、お昼ごはんはあっさりと崎陽軒に決まった。母は、東京エリア限定の中華弁当、私は一度食べてみたかった横浜チャーハン弁当である。
母のお弁当は豪華版、チャーハン弁当はサイズも可愛らしく物足りないような気がする。ちょうどすぐそばに京都から抹茶スイーツのお店が来ていたので、そこで抹茶冷やしぜんざいを購入した。冷凍してあって、1時間くらいで食べごろになるというからちょうど良い。
お弁当を即決したので、電車の時間までだいぶ余裕がある。
新宿駅到着時に相当雨が強く降っていたため、晴雨兼用の傘しか持って来ていない母が「傘を買いたい。」と言い出し、デパートに向かった。
折りよくセール中で、母は折りたたみ傘だけでなく、ストールまで(しかも2本!)買い込んでいた。
そういえば、以前に河口湖に行ったときも高速バスの発車まで余った時間に母はデパートで帽子を買い込んでいたなぁと思い出した。
特急かいじに乗って「雨が強くなった!」「青空が見えた!」と窓外の天気に一喜一憂しつつ、早速お弁当を開く。
やはり見た目どおり、母のお弁当の方がボリュームがある。二人とも「甘めの味付けだね。」と意見が一致する。しょっぱいと塩分を気にする方々から不評だけれど、甘めであれば万人向けということらしい。
お弁当を食べ終わってちょっと物足りなかった私が抹茶冷やしぜんざいを食べようとして、溶けていない上にスプーンが付いていないことが判明した。これは食べようがないと、宿に到着してからのお楽しみに変更だ。
13時過ぎに甲府駅に到着したときには雨は小降りになっていた。これくらいなら大丈夫と傘は差さず、県立美術館行きのバスが来る南口に出る。
次のバスは13時21分発で、それほど待つ必要もなくラッキーである。
てっきり駅始発のバスだと思っていたら、どこかから来たバスのようで、数分の遅れで到着した。バスに乗る人は4〜5人で、その方々も次々に降りて行き、貸切バスのようになった。
もしかして美術館もガラガラではないかと思い始めた頃、美術館がある公園の駐車場が見えた。結構一杯になっていて、みんな車で移動するのだと改めて認識した。
山梨県立美術館最寄りのバス停に着いたときもやっぱり小雨が降っていた。「これくらいの距離なら」と傘を差さずに美術館まで小走りで向かう。
今回の目当てはミレーである。母と「常設展だけでいいよね。」と話し、チケットを買う。
母はいわゆるシルバー割引で無料(特別展を見る場合はチケットが必要)、私は甲府市内宿泊者割引で通常500円のところが400円だ。母は自ら年齢を明かしていたけれど、私は受付の方から先に尋ねていただき(ボストンを持ったままだからだと思われる)、何て親切なんでしょうと思う。
常設展のチケットで、ミレー館と「2012年夏のスペシャル展示 美術館に行こう! ディック・ブルーナに学ぶモダン・アートの楽しみ方」を見ることができた。
まずはミレー館に向かう。「館」といっても別棟の建物があるわけではなく、どちらかというと「ミレー室」という感じである。
黒い天井に赤い壁で、その色から受ける印象よりも落ち着いた空間だ。
山梨県立美術館といえば、「種まく人」をオークションで落札したことは覚えていたけれど、その他にもミレーの作品を多数所蔵していることをテレビで見て、ぜひ行きたいと思っていた。念願が叶って嬉しい。
昨年度に新たに購入された絵もあって驚く。
ミレーの他にも、同じバルビゾン派の画家の絵も所蔵されている。
昔、我が家には何故か子供向けのミレーの伝記物語の本があり(他の人の伝記は一切ない)、私にとってミレーはかなり近しい画家となった。母にその話をすると、「私は知らないから、(買ったのは)お父さんじゃない?」というつれない返事だった。我が母ながら、ロマンを解さない方である。
よく知られる「落穂ひろい」とは別の構図(というか、縦横が違うだけ)の絵もあったし、もちろん「種まく人」のちょっとアンバランスな暗い画面も懐かしい感じがする。
私が一番気に入ったのは、ミレーの最初の妻を描いたという肖像画だ。タイトルは「ポーリーヌ・V・オノの肖像」で、黒っぽい背景に、黒いドレスを着た若い儚い雰囲気の女性が描かれている。
また、「鵞鳥番の少女」と題されたスケッチのような小品も、ちょっと絵本の挿絵風で、線だけで描かれた素朴な感じが良かった。
次は、ミッフィーである。
もっとも、「ディック・ブルーナに学ぶモダン・アートの楽しみ方」というタイトルからも判るように、ミッフィーはあくまで脇役だ。「ミッフィーのたのしいびじゅつかん」という絵本をモチーフに、ミッフィーに紹介させる形でいわゆるモダン・アートを紹介し、解説している。
そのモダン・アートの紹介をメインにしつつ、ミッフィーたちの原画も展示され、ディック・ブルーナに関する解説や彼の創作技法なども紹介されており、なかなか楽しい。
ブタのポピーさん(日本名は「うたこさん」)というキャラをここで初めて知った。
こういうものを見ると、母と私の会話のテーマは甥っ子に集中する。
小熊のボリスは甥っ子に似ているとか、これをお土産に買って帰ろうとか、塗り絵のコーナーがあったのでそれも頂いて帰ろうとか、ミュージアムショップでもやけに盛り上がった。
妹にというよりは甥っ子に小熊のボリスのぬいぐるみと、ミッフィーの小さめのガーゼ地ハンカチ(よだれ拭き用のつもりである)を購入し、自分用にハンドタオル2枚と、友人のお嬢さんに喜んでもらえるような絵葉書を購入した。
コインロッカーに預けていた荷物を引き取り、湯村温泉に向かうバスがちょうど出たばかりで次は1時間半後だったので、タクシーで本日の宿に向かった。
が、しかし、である。
タクシーが走り始めてすぐ、お財布を確認しようとバッグを覗いてみたら、その肝心のお財布がない!
焦って、ショルダーバッグは元よりボストンバッグの中を探してもない!
だとすると、財布に入れていたコインロッカーの鍵を出したときにどこかに置き忘れたとしか考えられない。
慌てて、タクシーの運転手さんにお願いして、美術館まで戻ってもらった。
運転手さんはここで待とうかと言ってくださったけれど、財布の捜索に一体どれくらいの時間がかかるものか判らなかったので精算してもらい(この支払いも母に頼むしかない。一人旅でなくて本当に良かった。)、慌てて美術館に駆け込んだ。
コインロッカーやお手洗いのあたりをうろうろバタバタ走り回って探していると、お掃除の方から声がかかった。
その方が見つけて、事務所で預かってくださっていたらしい。もう本当に忝い。
最敬礼して、受け取りにサインをし、無事にお財布を手にしたときには本当にほっとした。
あー、焦った。
母には散々ばかにされたし呆れられたし、もう1回お願いしに行ったタクシー会社のおじさんにも笑われたけれど、でも、無事に手元に戻ってきたのだからいいのである。
拾ってくださった方、預かってくださった方には本当に感謝だ。
そして、今回持って行ったショルダーバッグはとても小さくて、普段から持ち歩く物の多い私には不向きである、がんばって荷物を減らしてもやっぱり荷物は減らないし、バッグにしまう面倒くささゆえに財布を忘れるようでは本末転倒である、と反省とも言い訳ともつかない反省をした。
美術館から今夜の宿である甲府湯村温泉の柳屋まで、焦りまくっていたので所要時間は覚えていないけれど、タクシー料金は1500円だった。
途中、運転手さんに教えてもらって振り向いたら富士山がてっぺんだけ姿を現していた。ずっと雲に覆われていたので嬉しい。そして、今回の甲府旅行で(本当にてっぺんだけとはいえ)富士山を拝めたのはこのときだけだった。運転手さんに感謝である。
晴天であっても、甲府から見える富士山は山の向こうに本当にてっぺんだけだそうだ。甲府は山に囲まれた盆地とはいえ、ちょっと意外なビジュアルの富士山だった。
多分、16時過ぎに宿に到着したと思う。丁寧にお迎えしていただき、お部屋に案内していただいた。
和室10畳に、掘りごたつがある2畳くらいのスペースとテーブルと椅子があるスペース、1階のお部屋だったのでお庭に面したベランダとデッキの中間のようなスペースが付いている。
全26室のお宿で、案内してくれた仲居さんのお話によると、この日の宿泊客は30名前後、そして宴会のお客さんがいらっしゃいます、ということだった。
お迎えのお菓子に栃もちをいただく。「手作りです。」とおっしゃっていただけあって、素朴な甘さで美味しい。
母は、この仲居さんから「親子なんですか? 姉妹かと思った。」と言われてご満悦である。いや、ちょっと待て、一体、私がいくつで母がいくつに見えているんですかと追求したかったけれど、大人気ないと思い直して控えた。
元々用意されていた浴衣は「中」サイズで、身長を告げると私用には「特大」というサイズの浴衣が用意された。重ね重ねショックである。しかし、浴衣を2枚いただけるのは嬉しい。
嬉しいといえば、切手が貼られた絵葉書もいただいた。宿の名前が入っているのはご愛嬌として、なかなか風情のある絵葉書である。
夕食は17時半、18時、18時半から開始時間を選べ、お部屋食だという。
18時半からでお願いし、少しゆっくりした方がお風呂が空くだろうと、買ってきたまま食べられなかった抹茶冷やしぜんざいをいただく。
スプーンがない状態なのは電車の中と変わらないけれど、溶けた状態を見てみると、とろっとはしているけれどそのまま飲めそうな濃さである。底に沈んだ小豆と白玉団子は栃もちについてきた楊枝で頂く。
かなり濃い抹茶ぜんざいで満足した。
お部屋に落ち着いた頃、雨が降り出した。絶妙なタイミングである。美術館を出たときには晴れていて、宿に入ったら雨。まるで雨女の私のためにあるような演出だ。
雨が止むのとお風呂が空くのを待ってしばらくお部屋でごろごろし、17時を過ぎた頃、小雨になったのを見計らって「露天風呂にも屋根くらいはあるだろう」と大浴場に向かった。
大浴場は、先客がお二人くらいとガラガラだった。
内湯にはジェットバスがあり、露天風呂があり、露天風呂の隣にサウナがある。塀越しに湯村山の緑が見える。
露天風呂に屋根はいけれど、雨が完全に止んでいた。素晴らしいタイミングである。
ほとんど貸切状態で温泉を満喫する。この前行った湯野浜や鬼首温泉のお湯は熱くて流石の私も長湯はできなかったけれど、こちらは風も涼しくて、いつまででも入っていられそうである。
カルシウムナトリウム塩泉で、無色無臭透明なお湯だ。からすの行水派のの母がとっととあがった後もさらにお湯を満喫し、髪を乾かしながら足裏を叩く機械を占拠し、大浴場を出たところにあるマッサージチェアまで満喫して部屋に戻った。
夕食が次々とお部屋に運ばれてくる。チェックインのときお世話になった女性がお着物に着替えて用意をしてくださった。
ヤマモモ酒の食前酒、二人とも頼んだ生ビールで乾杯し、次々と現れるお料理をものすごいスピードで食べてゆく。先ほど食べたばかりの善哉は、風呂に入っている間にどこかに行ってしまったらしい。
ジョッキで頼んだらいつも残してしまう母からグラスにビールをもらい、そちらもいいペースで飲む。
お品書きをいただけたので、さらにお料理をいただくのが楽しい。
この日のお夕食の献立は以下のとおりである。
お通し
もろこし豆腐 山桃 美味出汁
前菜
姫サザエ、枝豆松風、焼きもろこしのテリーヌ、ゼリー寄せ(穴子、空豆、蟹スティック)
お造り
海老、蟹、旬のもの
凌ぎ
黒ごまおざら
煮物
南瓜玉子豆腐、海老団子、茄子オランダ煮
洋皿
山梨県産富士桜ポークソテー
山形の一品
煮貝(甲州名物鮑の醤油煮)
揚げ物
山葵葛あられ揚げ、レンコン、南瓜、モロッコ豆
酢の物
とろろ、オクラ、帆立、ジュンサイ、黄身酢
食事
生姜かちりごはん
お椀
鳥つくね、冬瓜、葛仕立て
甘味
フルーツ
海なし県の山梨県であわびが出てきたのには驚いた。そして、美味しい。
同じように考える人が多いのか、特に説明書きがお皿に付けられていた。
曰く「昔、ぜいたくに醤油で煮たものを持ち込んだところ、杉の樽の香りと、馬の背で山までゆられた日数とで、美味この上ないものになっておりました。それで山国の山梨の名物に貝があるのです。」ということだ。
何にせよ、美味しかった。
じゃことしょうがのごはんも美味しくて、一瞬「おにぎりを作っておくか」と思ったものの、とても食べられそうにないので断念し、食事を下げてもらってお布団を敷いていただいたのが20時半くらいだった。
お布団を敷いてくださる方と何故か熊の話になり、「熊除けの鈴って役に立つんですか?」とお聞きしたところ、「熊は基本的に人間を怖がっているので、人間が来るぞと知らせれば向こうで避けてくれる。それを知らせる方法として熊鈴は、人間よりも高音をよく聞き取れる熊には有効である。」というお話だった。
「だから、山歩きに行きましょう。」と言われたので「いえいえ、平地で。」と答え、笑われてしまった。
柳屋には大浴場が二つあり、時間で交代になる。その交代時間が22時だ。
かなり眠くなっていたし、母は寝てしまっていたけれど、絶対にまたお風呂に行くんだとテレビを見ながら無理やり目を開け続ける。
22時30分くらいに行ったら、やはり大浴場はガラガラで、内湯も、二つの露天風呂(ヒノキ風呂と岩風呂である)もゆっくり満喫した。
夕立があったからか、風が涼しくて気持ちいい。
明日の朝食は7時半、8時、8時半と三つの時間帯から選べ、8時からでお願いしてある。
目覚ましをかけなくても7時くらいには目が覚めるだろうと、23時過ぎに灯りを消した。
-> 甲府旅行記2日目
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2012年8月18日(土)から1泊2日で母と甲府に行って来た。
母には「どうして暑いときに暑い甲府に行くのか」と言われ、事前の評判があまり良くなかったのだけれど、行ってみれば、雨に降られたのは電車の中や建物の中にいるときだったし、富士山もちょこっと見られたし、ミレー目当てで行った山梨県立美術館のミッフィー展も楽しかったし、宿のごはんもお風呂も良かったし、今が旬だという巨峰をぶどう狩りで食べられたし買えたし、終わりよければ全て良し、というところではないだろうか。
私が途中で財布を置き忘れたことは内緒である。
(気がついて探しに戻ったら、届けてくださっていた方がいた。感謝である。)
妹母子が泊まりに来ていることもあり、16時過ぎには家に帰って来た。
夕食は、お土産のほうとうである。
この1泊2日の旅行にかかった費用は、一人分約21000円だった。ここには、交通費、宿泊費、食事代、入館料が含まれているが、お土産代(ぶどう狩りも含む)は含まれていない。
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