2016年5月1日(日曜日)
朝からいいお天気でハイキング日和である。
最高気温26度の予報に若干戦きつつ、リュックを背負って家を出る。半袖Tシャツに長袖シャツを羽織り、ウィンドブレーカを持つ代わりに折りたたみ傘やレインウエアはいらないだろうと荷物に入れなかった。
凍らせたペットボトルの水を持ち、駅前のコンビニでおにぎりを買う。
電車では幸い座ることができた。高尾駅で京王線に乗り換え、たまたま階段に一番近い車両に乗っていたので高尾山口駅ではお手洗いもあまり並ぶことなく利用できた。
高尾駅での乗り換え口でも、高尾山口駅でも、特に女性用トイレには行列ができていた。
駅に着いたところでペットボトルを見たらほとんど氷が溶けていなかったので、350mlの小さいお茶のペットボトルを買い足す。
高尾山口駅改札に10時集合である。
モンゴルツアーでご一緒した、山登りが趣味の女性と、フラダンスとアイススケートを習っている女性と、完全インドアの私という3人での高尾山ハイキングだ。
私が到着したのが多分10時ジャストくらいで、お二方はすでに地図など見ながら相談されていた。
しかし、その「相談している二人」を探すのが大変なくらいの人出だった。駅前は人で埋め尽くされている感じだ。高尾山がこんなに混雑しているとは! と驚く。
高尾山は今年4回目というリーダーに「舗装の道と土の道とどっちにする?」と聞かれた。
土の道の方が涼しそうではあるけれど、足もとを気にしないでいい分だけ舗装の道の方が楽であるらしい。
いわば、舗装された表道路の1号路と、土の裏道の6号路というところだろうか。
ゴールデンウィーク中は、6号路は14時まで登り専用になっている。
「楽」の一言に釣られ、「1号路に行きたいです!」と宣言した。どう考えても一番体力がない私である。「楽」という言葉に勝る呪文はない。
駅前が凄い人出から想像できるとおり、この1号路も大混雑である。
渋谷の交差点を渡ったところの歩道くらいの混雑振りだ。道を間違えることだけはなさそうである。
ちょっとした分岐点では、立ち止まってお水を飲んだり、あっという間に暑くなって上着を脱いだりする人達が集まっている。私も歩き出して早々に長袖シャツを脱いで半袖シャツ1枚になった。日焼けが心配だけれど、暑さには勝てない。
周りの人がしゃべるのを聞いていると、どうやら高尾山はミシュラン三つ星の観光地ながら、それほど外国人の方は多くなさそうである。
ゆっくりゆっくり、息が切れないくらいのペースで歩く。
というか、歩いてもらう。
子ども達は元気にスキップして登っているし、赤ちゃんを抱っこしたりベビーカーを押して登っているお母さんもいる。母と子は強い。
「毎週、高尾山に登っています」という感じの年配の方はあまりいない。舗装道だからだろう。
様々な感じの人々に抜かれつつ、それでも30分くらいで金比羅台への分岐に到着した。見晴らしのいいという金比羅台に回ることはせず、そのまま高尾山頂を目指す。
この時点で既に結構ヘバっていた私も、こうして見下ろしてだいぶ登ってきていることを実感できると少しだけ元気が出た。
「お腹が空いた」と言われ、持って来たはちみつ飴を配る。
山っぽいものをと思い、今回、おやつにははちみつ飴とドライフルーツ(いちごとマンゴー)、そして干し梅を持って来ている。
2週間くらい前には山桜が咲いていたという高尾山は、今は新緑の季節だ。緑がきれいだし、舗装道とはいっても木々の間を歩いて行けるので日射しは遮られる。
風も涼しいし、ハイキング日和だ。
道端には、シャガという花が群生して咲いている。
他のお花はほとんど見かけないくらいだ。
シャガは根っこが丈夫で、崖崩れを防ぐ効能があるらしい。種がないという話だから、誰かが「崖崩れを防ごう」と高尾山に大量に植えたのだろうか。
歩き始めて45分くらいのところで、チョコレートをもらった。M&Mなら溶けずに手を汚さずに食べられると教えてもらい、なるほどと感心する。やはり「山歩きの知恵」みたいなものがあるんだなと思う。
歩き始めて1時間弱、10時50分くらいにリフト乗り場に到着した。
20年くらい前に初めて高尾山に来たときはこのリフトに乗ったと思う。
そして、リフトを降りてから山頂まで、薬王院の階段を回避して土の道を歩き、それでも遠くて大変でもの凄くヘバったという記憶がある。
リフトから降りてくる人々はやはり軽装の人が多くて、流石にヒールの人は見かけなかったものの、素足にスニーカーを履いたお嬢さんやGパンの人などが一気に増えた。
ケーブルカー乗り場の辺りまで来ると、進行方向左手が一気に開ける。
いい眺めだ。
風も気持ちいい。
山登りをされる方は、昨年にダイヤモンド富士を見るために高尾山に登り、そのときの帰りに見た夜景がとてもとても綺麗だったとおっしゃる。
方向的に、多分、八王子を見下ろしていたのだと思う。お天気が良ければ、高尾山から新宿の高層ビル群やスカイツリー、筑波山まで見渡すことができるという。
モノレール乗り場からすぐのところに「蛸杉」がある。
我ながらどうして肝心の根っこの部分を撮っていないのかと思う。この杉の木のポイントは根っこで、ある方向から見ると、蛸の足がにょろにょろクネクネと蠢いているように見える。
ちょっと気持ち悪い。
たくさんの人に根っこのところを踏まれ触られて弱ってしまったらしく、今は根っこの部分には触れないよう金網が張ってある。
代わりに、石づくりの蛸の像が置かれていて、そちらは触り放題になっていた。「引っ張りだこ」という語呂合わせで、開運の御利益があるらしい。
ところで、薬王院は、お寺なのか神社なのか、鳥居があるから神社じゃないか、お守りやお札が売られていたから神社じゃないか、しかしお堂からは読経の声が流れているからやっぱりお寺? と3人で言い合ったけれど、結論は出なかった。
公式サイトを見ると、正式名称は高尾山薬王院有喜寺だというから、お寺が正解だ。
今さらながらへーと思う。
20年前には回避した階段を上る。上ってしまえばあっという間だ。一段一段が高いものの、階段の幅もあって上り易い階段である。当時の私に「階段を行った方が断然楽だよ」と教えたい気分である。
階段を上がったところには極彩色の建物があった。御本社である。しめ縄もあって、やっぱり神社なのでは? と思う。
お賽銭を上げ、お参りする。
御朱印もいただけるようで、御朱印帳を持って来れば良かったなぁと思う。
登り始めて1時間45分、高尾山頂に到着した。
「山頂だ!」とか「登り切った!」とか「いい眺めだ!」とか、そういう感慨にふけりたいところではあるけれど、最初に思ったのは「凄い人!」だった。
ケーブルカーで来た人、リフトで来た人、歩いて来た人、その全ての人たちが(全員ではないかも知れないけれど)、この山頂に集まっている! という感じだ。
「高尾山頂」という看板のところで写真を撮ろうと列ができていて、「列を作って並ぶところが日本人だね。」と言われて笑ってしまった。
準備万端のリーダーがビニルシートを用意してくれていて、お昼ごはんになった。
「やっぱり、山のおにぎりは梅干しだよ」と買ったり作ったり3人とも梅干しのおにぎりを持ってきていたのが可笑しい。
さらにさらに、キュウリの浅漬けや梅干しなども持参してくださっていて、ドライフルーツやチョコレートも出てきて、ぱくぱくと食べた。
美味しい。
気がつけばお腹もぺこぺこである。
45分くらい休憩し、お手洗いも済ませる。
このお手洗いが凄くて、2階建て、水洗トイレ完備である。2階は女性用のみ、1階は男性用と女性用があって、一方通行になっていた。
登りで見かけたぶどう酢のソフトクリームを帰りに食べようという計画もあったけれど、お腹もいっぱいになったし、行きと帰りは別の道を行きたいと、薬王院には寄らずに4号路に入った。
「滑りやすいので、ちゃんとした装備がない人は行かないでください」といった趣旨の横断幕が掲げられている。3人ともくるぶしまでのトレッキングシューズだし、「ちゃんとした装備のある人」に入るだろう。
4号路に入ってすぐのところは、整えられた木の階段である、
しかし5分もしないうちに木の階段は終わり、その後は木の根や石でごつごつした土の道になる。
確かにこれは「足もと注意」という感じだ。
山頂から30分ほどで吊り橋に到着した。
4号路のハイライトである。
てっきり、吊り橋と言いつつ、幅4m高さ2mくらいの観光用吊り橋なのかと思っていたら、かなりの高さの峡谷に渡された吊り橋で驚いた。
高所恐怖症気味のある私には「ひええ」と言いたくなるくらいの高さがある。
鉄のワイヤで吊られ、歩くところは堅い板が張ってあるので思ったほど揺れることもなく、無事に渡ることができた。
この吊り橋がなかったときは4号路はなかったのか、それともうんと上流か下流に回り道していたか、どうしていたんだろうと言い合う。
吊り橋から10分ほどで薬王院の山門に戻って来た。
意外と時間がかかったなぁという印象だ。薬王院を抜けると、間に色々とイベントや売店があるし、気が紛れて早く感じるのかもしれない。
ケーブルカー乗り場の辺りまでゆるゆると下り、「景色はここで見納めだよ」と言われて緑濃い景色を眺める。
いいお天気だ。
そういえば、空気が澄んでいる季節や時間帯だと高尾山頂から富士山を望めるらしい。今日は残念ながら白く霞んでしまっていたので、この景色が高尾山からのベストの景色である。
ケーブルカー乗り場の先に、琵琶滝に向かう2号路の入口がある。こちらも「上級者向けです」という注意書きの看板があった。
「この靴なら大丈夫だよね」と降り始める。
あちこちにある看板や標識には英語や中国語、ハングルもあったけれど、この「上級者向け」の看板には日本語しかなく、かなり小さいお子さんを連れた外国人の方の一家が歩いていて、大丈夫かなぁと心配になった。こういうときに、「大丈夫ですか」と言える英語力がないのは申し訳ない。
これは結構急な道だし、細い道でもある。
途中、すれ違いざまに思いっきり転んだ方がいらして、驚いたくらいだ。何故か持っていたマキロンが唯一活躍した場面である。
山頂から1時間、2号路に入って30分で琵琶滝に到着した。
琵琶滝は修行のための滝で、近くまで行って眺めることはできない。
滝としては細いし低いけれど、あの下で水に打たれるとなれば話は別である。
「滝行をしてみたいけど、一人じゃイヤだ」「あの幅の滝だったら、二人いっぺんは無理だと思う」と論評(?)氏合う。
下り始めたときから「喉が渇くね。」と言い合っていた。
琵琶滝辺りまで降りてくると、明らかに気温は上がっているし、喉も渇く。水もしょっちゅう飲んでしまう。
登っているときの方が汗をかいていたのに不思議だ。
高尾山は標高599mとはいえ、やはり600m上がると気温は3度くらい下がるそうだ。水分補給は重要だよと改めて思う。
琵琶滝から上を見上げると藤の花が見えた。
多分、藤の花だと思う。
野生の藤の花が咲いているということは、意外と高尾山の森も人の手が入っていないのかなぁと思う。
シャガばかり見ていたので、この藤の花の登場は嬉しかった。
季節には杉の木の上の方に蘭科の白いお花が咲き、そのお花を探して上を見ながら歩く人も多いそうだ。
とても綺麗なお花だそうでちょっと見てみたいけれど、私が上を見ながら歩いたら、足もとがお留守になって見事にコケそうである。
琵琶滝から下は6号路に入る。
登り専用にもするよね、というくらいの道幅しかない。川沿いの道で涼しげだし、今はほとんど上がって来る人もいないので歩きやすいものの、やはり混雑していたらちょっと怖いかも知れない。
琵琶滝からケーブルカー(下)の乗り場まではあっという間で、山頂から90分で降りてくることができた。
14時15分、到着である。
登り始めてから4時間15分のハイキングだった。
それにしても、何だか勿体ない気持ちになる。
もっと歩いていてもいいなぁと思う。そう思えるくらいがちょうどいいのかも知れない。
高尾山口駅までの道をぶらぶら歩き、ちょっとお土産物屋を覗いた。お饅頭なども美味しそうだ。しかし、職場にお土産を持って行くほどの距離でもなかろうという結論になる。
高尾山口駅直結の最近出来た高尾山温泉の入口には「待ち時間はありません」の看板が出ていた。それでもかなり中は混雑していることだろう。
我々は、14時半くらいの電車に乗り、さくっと解散した。