箱根旅行記の入口を作る
ここは箱根旅行記への入口である。
以下の日程をクリックすると、その日の旅行記に飛べるようになっている。
この1泊2日の箱根旅行にかかった費用は、2人分で概算6万5000円だった。(この中には、交通費、宿泊費、食費、入館料などは含まれているが、お土産代は含まれていない。)
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2008年8月21日(木曜日)
6時に目が覚めた。
私は珍しく完全に熟睡したけれど、母は部屋が暑くて何度も起きたらしい。
「暑くて私は何度も起きたのに、あんたは鼻まで布団を被って寝ていた。」とぼやくので、まずは汗を流しに温泉に行くことにした。朝6時から入ることができるのでちょうど良い。
内湯は熱めだ。露天のジャグジーでもう1回足をマッサージして、汗が噴き出す前にさっと上がった。
富士山を見るならやはり朝のうちが勝負だろうと、ホテルの4階のさらに上にある展望室に行った。
椅子が4脚置いてあるだけの、殺風景といえば殺風景な場所だ。大きなガラス窓から芦ノ湖が一望で、その景色だけで満腹である。
箱根町方面と富士山方面の2ヶ所、窓を開けることができるのも嬉しい。
そして!
待望の富士山を見ることができた。
すでに8月初旬に初冠雪は迎えていたものの、ほとんど白いところのない、ブルーグレーの富士山である。手前の濃い緑や湖の暗めの青い色と対照的に、水色の空にぽっかりと遠く霞んでいる。
本当にどうして富士山は写真に撮ると小さくなってしまうのだろう。
展望室に電話が置かれていたので、部屋に電話をして母を呼んだ。
どうしてこんなにはっきりと見えている富士山を昨日は全く拝めなかったのか、訳が判らない。
そしてまた、朝起きたときに「上の階の人は一体何をしているのだろう」と思った地響きのような、太鼓のような音が今も続いている。「雷かな」という話もしたけれど、それにしては断続的に聞こえているし、雷雲のような雲も見えないし、青空である。
4階からは階段でしか上がってこられない展望室に、小さめとはいえキャリーケースを抱えた(推定)オーストラリア人の男の人が上がってきた。こんなに早い時間にチェックアウトするのかしら、チェックアウト前に展望室に来たのかなと思っていたら、おもむろにそのキャリーケースを開け、一眼レフカメラとレンズ、三脚を取り出した。
機材は万全なのに、わざわざ汚れたガラス越しに富士山の写真を撮っているのが謎だ。確かにアングルとしてはそちらの方がいいし、フィルタをしていたから反射光はシャットアウトできそうではある。しかし、はめ殺しの窓ガラスはそれなりに汚れている。
見かねた母が開けた窓を教えてあげると、喜んでそちらから撮っていた。謎だった。
30分くらい、ほぼ独占状態で富士山と芦ノ湖を堪能し、満足したところで朝食を食べに行った。
食事のクーポンが、夕食は二人で1枚、朝食は一人に1枚ずつあるのは気が利いていると思う。
7時30分頃に行ったら、テーブルにはかなり余裕があった。和食を選ぶ人が多いのか、時間がずれているのか、どちらだろう。
二人とも洋食を選び、優雅にテラスで朝食をいただく。
箱根で、富士山の見えるホテルのテラスで朝食をいただいていると、パンくずをついばみに来ている雀すら可愛く見えてくるのが不思議である。
朝食はビュッフェスタイルではなく、メニューから選ぶようになっている。
私は、こんな感じのメニューになった。
ヨーグルトドリンク(他にオレンジジュースなどが選べる)
プレーンオムレツとソーセージ(他に、スクランブルエッグ・ハムなどが選べる)
サラダ
クロワッサンとロールパン
コーヒー(紅茶も選べる)
この朝食で出された柚子のジャムが美味しかった。ホテルのギフトショップで聞いてみたら、販売はしていませんというお話で残念だった。
その代わり、職場へのお土産を購入する。山のホテルのクッキーなら一目で箱根に行ったと判るし、この後「買わなくっちゃ」と気にしないで済むし、駅まで持って行ってもらえるので楽ちんである。
朝食を食べ終えて、そのままお庭の散歩に出た。
今はもちろんつつじは咲いていないし、薔薇園のバラも完全に散りかけである。お花を見るには8月はあまりいい季節とは言えない。
そんな中、彼岸花が綺麗に咲いていた。
私のイメージでは彼岸花は毒々しい赤だけれど、このお花は柔らかな山吹色である。
歩いていると、ホテルの人が大切に丹精して庭を整えている感じが伝わってくる。
辺りにもお散歩している人や、富士山をバックに写真を撮っている人がたくさんいた。
母がギフトショップでストールを買っている間、私はベルデスクにホテルから箱根園までの足について聞きに行った。
9時30分と10時10分に高速バスが目の前のバス停に来るので、それに乗って行けばいいと言う。
「他の手段はないんですか?」と聞くと、元箱根まで行けばバスがあると言う。
何だか歯切れが悪いなと思っていたところ、帰ってきてから友人に言われて納得した。
山のホテルは小田急系列、箱根園は西武系列で、だから箱根園までのバスなども西武バスが運行しており、山のホテルには停まらない。
なるほど、歯切れが悪い訳である。
彼女は逆に西武系列のホテルに泊まり、小田急系列の海賊船に乗りたいと尋ねたところ、なかなか教えてもらえなかった経験があるらしい。
8時前に部屋に戻り、チェックアウトまでかなりのんびりと過ごした。
チェックアウトのときに、箱根湯本駅までのキャリーサービスをお願いした。
9時30分に来たバスは新宿行きの高速バスで、乗客は私たち二人だけだった。
ベテランのドライバーさんがハンドルを握り、同乗している若手の後輩に運転のコツを伝授しているようである。山道を車体の大きなバスで走るのはやはりかなりのテクニックが必要なのだろう。
10分くらいで箱根園のバス停に到着し、すぐそばにある駒ヶ岳ロープウエイの乗り場から9時50分のロープウエイに乗ることができた。
ここは箱根フリーパスは使えないので、クーポンを利用して割引チケット(往復840円)を購入する。
ロープウエイに乗る前に写真撮影があり、その順番待ちの間に「駒ヶ岳山頂は16度です。」というアナウンスがあり、そこで待っている一同がどよめいた。
16度? 今は真夏の8月である。
そして、やはり夏のなせる技なのか、7時くらいにはくっきりと姿を見せていた富士山が、ロープウエイから眺めたときにはすでに雲に覆われかかっていた。
一体、この雲はどこから湧いてきたのだろうという感じである。
そしてまた、どうしてこう富士山は写真に撮ると小さくなってしまうのだろう。
ロープウエイが山頂駅に着く頃には、さらに富士山は雲に覆われていた。
微かに雲が切れることはあるものの、徐々に富士山とそっくり同じ形に育った雲に覆われ、私たちが山頂にいた1時間弱の間に完全に隠れてしまった。
富士山を存分に拝めなかったのは残念だったけれど、駒ヶ岳はなかなか楽しい場所だ。
高山植物がまだちらほら咲いている一方で、ススキも少しずつ開いている。
ロープウエイの駅から思いの外近くに箱根元宮がある。
箱根元宮は、箱根で2番目に高いこの駒ヶ岳山頂に造られ、箱根で1番高い山であるお隣の神山をご神体として仰ぎ拝んでいる。
残念ながら閉まっていてお賽銭は上げられなかったので、お参りして手だけ合わせて来た。
のんびり歩いて、神山も拝み、芦ノ湖を見下ろす。
ロープウエイで芦ノ湖から600m上がっても、湖の全景を納めることはできない。
こうやって上から眺めると、芦ノ湖が本当に「大きなみずたまり」であることが判る。
11時前に芦の湖畔に降り、西武バスで元箱根まで戻った。
箱根は神奈川県だからsuicaもpasmoも使えるのに、うっかりバスのチケット(330円)を買ってしまった自分が何だか可笑しい。よっぽど遠くまで来たつもりになっていたようだ。
バスまで少し時間があったのと、母がお昼ごはんの前に成川美術館を見たいと言うので、お腹をなだめるため、ニューサマーオレンジ味のところてんを二人で一つおやつに食べた。
他の黒蜜味などのところてんが300円だったところ、ニューサマーオレンジ味だけキャンペーンで200円だったからという理由で選んだら、これが意外と美味しかった。
成川美術館は、箱根湖畔にある日本画のの美術館である。
私の中では、美術館そのものよりも、この「美術館からの眺め」の良さのイメージが強い。ただし、ちょうど鳥居の上辺りに見えるはずの富士山は、すっぽりと白く厚い雲に覆われてしまっている。
入館料は、箱根クーポンの割引を利用して1人1100円である。
このときは、第1展示室で「鬼才・米倉健史のキルトアート展」、第2展示室で「夭逝・石井康治のガラスアート展」、第3と第4展示室で「花物語−極上の名画たち−」が開催されていた。
母は、自ら「見たい」と言った割にすいすいと驚くほどの速さで歩いて行ってしまう。日本画にほぼ興味のない私ですら、もうちょっと時間をかけるというほどの速さである。
どうも母は、「このデザインは木彫りに応用できるか」という観点でしか絵を見ていないらしい。それでは通り過ぎるのも早い筈である。
成川美術館の滞在時間は僅か40分程度だった。
そして、成川美術館そばにある、深生そばに入った。12時過ぎのランチタイム真っ盛りだったけれど、すんなり席に通される。
二人で天ざるを頼もうとしたら、オーダーを取りに来たおばさまに「1時間弱お待ちいただくことになります。」と言われた。流石にそんなには待てない。二人ともオーダーを鴨せいろ(1260円)に変更する。
ちょっと悔しかったので周りを何となく気にして見ていたら、天ぷらもの(天丼とか天ざるとか)を頼んでいる人は全くいない。これだけオーダーがないのにどうして1時間もかかるのか謎である。
謎といえば、鴨せいろを頼んで、そば湯が出てきたのも謎だった。小さめの丼に入ったおつゆは鴨せいろだからかなり脂が浮いている。「ここに注いで飲む?」としばし悩んだ末、結局飲まなかった。
お作法としてはどうすれば良かったのだろう。お店の人に聞いてみれば良かったと思う。
この辺りには寄せ木細工のお店も並んでいて、母が「やっぱり寄せ木細工を見たい。」と言う。時間も早いことだし、バスで「旧街道石畳」まで出てそこから畑宿まで歩くことにした。
このコースなら、ずっと下り坂だから楽な筈である。
そう考えたところで、すでに昨日の教訓を忘れている。莫迦である。
セブンイレブンで切手を買って昨日書いた絵はがきに貼り、ポストに投函する。
そんなことをしていたらバスの時間となり、「旧街道石畳」まで行った。バスならすぐ、石畳の上り坂をずっと歩くとするとかなりハードそうな道のりである。
バスを降りて、そのまま左手に伸びている下り坂を行けば畑宿方面、道路を渡って反対側の上り坂を行けば元箱根方面である。
畑宿方面に続く道は地震などで崩れてしまった石畳の道を復旧させた道、元箱根に向かう道は江戸時代のままの石畳の道だ。
この石畳の道をヒールのサンダルで、しかもキャリーケースを転がして歩いて行った女の子3人組がいた。彼女たちは無事に元箱根まで歩くことができただろうか。
「江戸時代のまま」という石畳を数m体感して、13時20分頃から畑宿方面に向けて歩き始めた。
バスの運転手さんに「石畳の道は甘酒茶屋くらいまでしか続いていないよ。」と言われていた。その甘酒茶屋までは歩いて10分くらいだ。
甘酒茶屋から先は、土の道になったり、石畳の道に戻ったり、七曲がりの辺りではその急カーブをショートカットするコンクリートの階段をひたすら下ったり、バラエティに富んでいるといえば富んでいる道筋である。
他に歩いている人もほとんどおらず、適当なペースで、「つま先が痛い」と嘆きつつ歩く。
何しろ、「猿すべり坂」などという名前が付くような道の連続である。
木立の中が涼しいとはいえ真夏のこんな季節に、こんなところを歩くのは私たちくらいだよと思っていたら、反対側から歩いてきた年配の女性4人組の方に「甘酒茶屋まではどれくらいですか。」と尋ねられた。
時計を見ていたわけではないけれど、恐らく下り坂で15〜20分くらいだったろう。
そう答えると、汗だくの顔をタオルで拭きつつ「そうですか。」とにっこりする。
こちらから聞く前に教えてくれたところでは、箱根湯本からずっと歩いて上って来たそうだ。
箱根湯本から??? この道を全て歩きで???
何となく箱根湯本から歩き始め、途中で今日の宿である旅館があったのでそこで荷物を預け、またそのまま歩いて上って来たとおっしゃる。
最初は荷物も持っていたんですか???
「元箱根まで行ったら、帰りはバスだわ。」と笑顔で去って行った。もの凄い健脚と体力である。
健脚でない母と私も、ずっと下り坂だったこともあり、当初の見込みどおり1時間強で畑宿の一里塚に到着した。
涼しい木立の山道の下りとはいえ、もう汗だくである。
目の前にあった金指寄せ木工芸館が目指していた「畑宿寄木会館」だと信じて飛び込んだ。
間違いだけれど、結果としてはこれが正解だったと思う。
店内は広々として、寄せ木細工で作られた五重の塔や、富嶽三十六景などの絵が飾られている。
箪笥などの大きなものから、コースターなどの手軽なものまで揃っている。しかも、張ったものではなく、無垢のものがメインであるところがいい。
母はお盆を、私はお箸とバレッタを購入した。
近くにある金指ギャラリー&ショップに立ち寄ったところ、ここのご主人が箱根駅伝の優勝カップ(もちろん無垢の寄せ木細工で作られている)を製作していらっしゃり、その写真などが飾られていた。
木彫りをやっている母は完成した作品よりも材料の木材の方が気になるらしく、隣の倉庫を覗いて、羨ましそうにそこに積まれた木を見ている。
やはり色目の異なる木を確保するのは難しいそうで、そこのご主人は「なくなったらあるものでやるだけです。でもまだストックがだいぶありますから。」とおっしゃっていた。
かなりゆっくりとお買い物をして、15時23分のバスに乗って箱根湯本まで戻った。
バスを待っているときに塔婆を持って歩いている方々を見かけた。この辺りでは8月20日前後がお盆であるようだ。
箱根湯本に着いたら、荷物を引き取る前にお土産を買わねばならない。
まず向かったのが、ちもとである。就職したばかりの頃に職場旅行で箱根に来て、そのときに教えて貰ったここの湯もちの美味しさは忘れられない。求肥のような白玉(四角く切られている)に、羊羹が入り、柚子の香りがする。竹の皮に包まれているところもゆかしい。
10年振りくらいでまた食べられると思うと嬉しい。
平日だったためか遅い時間でも売り切れていなかったのが幸いである。
そして、ここは山の中と思いつつ、ひもの山安で鰺の干物やみりん干しを購入する。
箱根に来る直前に教えてもらった鈴廣 かまぼこの里に行くには時間的に厳しそうだったので、ここで「おだまき」も購入する。
荷物が重くなって来たので、お土産はこれで打ち止めにした。
しかし、最後の一仕事が残っている。ソフトクリームを食べると決めている。
昨日、箱根焙煎珈琲の珈琲牛乳ソフトと、杉養蜂園のはちみつソフトクリームをチェックしていた。今日は、残念ながら箱根焙煎珈琲は閉まっている。
母と二人で蜂蜜ソフトクリームをいただく。しつこくない濃厚な甘さでとても美味だった。
16時47分発のロマンスカーに乗り、夕ごはんは新宿で買うか食べることにして、帰路についた。
天気予報ではこの二日目は午後からかなり雨が降るということだったけれど、結果的にお天気に恵まれ、自宅に帰るまで雨に降られることもなく、箱根のお山の上で太鼓のような雷の音を聞いただけで済んだ。
箱根はなかなか楽しかった。
次は紫陽花の季節や紅葉の季節に行ってみたい。
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2008年8月20日(水曜日)
新宿駅10時発の 小田急ロマンスカーで箱根に向かう。
夏休み中とはいえお盆も過ぎた平日である。閑散とはしていないまでものんびりムードなのではないかと期待していたらとんでもない。最新型の車両で停車駅も少なく、箱根までの所要時間が短いということもあって、10両編成のその電車は満席だった。
前回、母と行った伊勢旅行は行きの船から大揺れだった。今回は雨に降られることはなさそうで、お天気はなかなかよい。
小田原駅で意外に人が降りるなと思っているうちに、11時25分、箱根湯本駅に到着した。
まずは、荷物をキャリーサービスに預ける。駅で12時までに預けると、15時以降に箱根各地のホテルに届けてくれるサービスである。
荷物1個が600円(クーポンを使用して500円)なので、私のボストンバックに母の荷物を入れて一つにまとめ、山のホテルまでの配送をお願いした。
これで、二人ともショルダーバッグ一つで身軽になった。
箱根湯本駅から塔ノ沢方面に少し歩き、「ちもと」の角を左に曲がって橋を渡った右側にある「知家茶家」でお昼を食べることにした。
食べることにしたといっても、私の勝手なセレクトである。
それにしても、暑い。母の日傘は正解である。
箱根は涼しいと私に吹き込んだのは誰だったのか。
「知家茶家」では、二人とも「豆腐点心(1850円)」を頼んだ。
献立は、わさび味噌奴、早雲豆腐、とうふステーキ、ごはん、吸い物、香の物である。
母と、このたれには何が入っているのか、家で作るにはどうしたらいいか等々とあれこれ推理し合う。
「わさび味噌奴」は、冷たいお豆腐にわさびとお味噌とゴマペーストで作ったたれをかけてある。家でも似た感じに作ってみようと思う。
この写真の「早雲豆腐」は、温めたお豆腐に、すり下ろしたとろろを具の入っていないお味噌汁で伸ばしたものをかけ、海苔と葱を散らしてあるようだ。
ちょうど山いもの粉の買い置きがある。こちらも、味はともかく、家で真似して作ってみることはできそうである。
母は豆腐ステーキが一番気になったようで、「これ、お豆腐は温めるだけで焼かなくてもいいわよね。」と言い出す。例えば湯通しして温めるだけでは、焼き目もつかないし、香ばしくならないし、美味しさが一段下がるような気がする。
豆腐ステーキと一緒にごはんとお汁とお新香も出され、お皿に残った早雲豆腐のとろろもごはんにかけてしっかり綺麗にいただいた。
駅に戻って、12時39分発の箱根登山電車に乗り込んだ。
今回は箱根フリーパスというチケット(5000円)を買ってあり、小田急系列の乗り物は全て乗り放題である。
3両編成(だったと思う)の電車は意外と混んでいて、何とか二人分の席を見つけて腰を下ろす。
箱根登山電車といえば、やはり沿線のあじさいが有名だ。残念ながら、すでにその紫陽花は茶色くカサカサに枯れ、もの悲しい気分になる。
スイッチバックを繰り返して急坂を上る電車は、「確かに上がっている」という感じが楽しい。
大平台だったか上大平台信号場(多分こっちだと思う)から見えた出山鉄橋の景色が気持ちいい。
こんな景色のいい場所でスイッチバックするように作るなんて、箱根登山電車もなかなか策士である。紅葉の時期にはきっとさらに見事だろう。
強羅で13時23分発のケーブルカーに乗り換える。
これまた大混雑で、とても座るどころではない。満員電車並みである。
登山電車では観光案内のテープが流れていた。ケーブルカーは停車する度に両側の扉が開き「行きたいところがある方のドアから降りてください。」というアナウンスが何度も流れる。なかなか楽しい。
ケーブルカーは短くて、すぐに早雲台に到着した。ほっとする。
ケーブルカーの改札を出た前方の壁に水彩画の絵はがきが貼ってあった。一目惚れして、箱根の四季を描いた色々な場所と季節が描かれた絵がセットになったものを買い求める。8枚入りで800円だから、お安くはない。
ケーブルカーの改札のおじさんに頼んで買うところが、また呑気といえば呑気である。何しろ、おじさんが絵はがきを取りに事務所に行っている間、改札は無人だ。
大涌谷に行くロープウエイに乗り換えた。
このロープウエイは、ひとつひとつの籠が大きいし、ほとんどガラス張りになっていて景色がよく見えるし、なかなかの優れものである。
そして、濃い緑を眺めながらの空中散歩と洒落込んでいたら、一山越えていきなり景色が変わって驚いた。演出効果抜群である。
同じ籠に乗っていた小学生くらいの女の子が、「おじいちゃんは大涌谷で待っていて、私とママともう一往復してこよう。」と言っているのが可愛らしい。よっぽどこの景色と「ぐうん」という感じが気に入ったようだ。
母の言うところによると、大涌谷には家族で来たことがあるらしい。ただ、家族旅行といえば車だったので、ロープウエイには乗ったことがないという。
そんな、想い出の場所かどうか微妙な大涌谷は、2008年8月には、(推定)韓国からのツアー客と(推定)中国からのツアー客に占拠されていた。
見た目ではほとんど判らないけれど、聞き取れない言葉が一帯に溢れている。
(推定)韓国から来た女の子二人組の写真を撮ってあげたり(フィルムカメラを使うのが久しぶりだったのでできあがりが不安である)、「北京オリンピックに行かずに箱根に来ていていいのか?」と疑問に思ったりする。
大涌谷は箱根ロープウエイで一番高いところにあるから涼しいだろうと期待していたら、日陰がないせいか、そばでボコボコ言っているせいか、かなり暑い。
階段を汗だくで上り、玉子茶屋で黒玉子を購入する。
これも、母には想い出の味だったらしい。
ばら売りはしておらず6個500円のセット販売のみである。それが、飛ぶように売れている。一体、1日の売り上げはどれくらいなのだろう。
黒玉子の案内板によると、まず80度の温泉に玉子1時間くらい浸けておくと次第に黒くなる。
その後、95〜100度の蒸し窯(これも当然に温泉を利用している)に入れ、10分くらい最後の仕上げをする。時間がたつにつれて玉子の黒さは色あせてくる。
真っ黒になった玉子の殻を剥き、「やっぱり何だかちょっと違う味がする」などと思いつつ、付いてきた塩をつけて母と一つずつ食べ、残りはおやつに持って行くことにした。
時間に余裕があれば今日のうちに成川美術館に行ってしまおうと思っていたけれど、この時点で14時30分近い。
それなら、美術館は明日ゆっくり行くことに決め、芦ノ湖に向かうロープウエイの次の駅である姥子まで、大涌谷湖尻自然探勝路を歩き始めた。ずっと下り坂だし、1時間強くらいで歩ける筈である。
この探勝路は、ときどき階段もありつつ、ほとんどが土の坂道だ。雨のすぐ後はかなりぐちゃぐちゃになりそうだけれど、概ね歩きやすい道である。
歩いている人がほとんどいないせいか、芦ノ湖が雨水だけで湛えられているくらい雨の多い土地柄のせいか、道ばたの杭や石などにはびっしりと苔が生えている。
そして、この苔がまた綺麗だ。
暑さを心配したけれど、コースの始めの方にあった噴煙地を過ぎた辺りからはずっと木立の中を歩くことができ、かなり涼しい。
恐らく、湖から吹き上がってくる風も抜けているのだと思う。快適に歩ける。
母は草花が好きだから、こんな小さい花にも気づくらしい。
鳥の鳴き声を気にしたのも母が先で、確かに変わった可愛らしい感じの鳴き声がずっとしている。私の場合は「鳥が鳴いているなぁ」以外の感想は浮かばない。母はずっと目でその鳥の姿を探していたらしい。
結局、案内板の絵と、遠目に見えた姿と茶色い羽根色から「ミソサザイ」だろうと当たりをつけた。
恐らく食い意地が張っているせいで、この野いちごだけは、私が発見する方が早かった。毒々しくも美味しそうな色をしている。
流石に食べてみるのは自粛した。
足元に落ちていた赤く色づいた葉から本当に枝先の一部だけ色づいた紅葉を見つけたのは母である。
やはりこのコースも、紅葉の時期にのんびり歩くのに向いているようだ。
案内板等がなかったので由来は不明だけれど、弘法大師が硯代わりに使ったという硯石がコースの途中にある。
特に看板もなく、道から外れて少し覗き込むようにしないと見えない。ひっそりとした見どころだ。
この辺りで家族連れに追い抜かれた他は人に会うこともなく、1時間弱でロープウエイの姥子駅に到着した。
姥子駅に着く少し手前、小高くなった場所のてっぺんに船見岩という岩があった。
その岩に上がると、芦ノ湖が見えるという。
岩に上がって芦ノ湖方面を見てみたところ、当時よりも成長しつつある木立などに視界を遮られてしまい、芦ノ湖の水面がほんの少し見えるだけだった。残念である。
姥子からロープウエイに再び乗り込み、あっという間に芦の湖畔の桃源台に到着した。
下り坂をずっと歩いたし、山歩き用の靴ではないので、足が痛い。特につま先に負担がかかっていたらしく、「もしかして爪が変色しちゃったかも」というくらいの痛さである。
桃源台からは、海賊船に乗って箱根町に向かった。
15時40分発の海賊船は、確か「ヴィクトリー号」だったと思う。待っていた20〜30人が余裕で乗って座ることができた。
もっとも、私が座っていたのはほんの少しの間だけで、ほとんどの時間はデッキで風に吹かれて写真を撮りまくった。
ずっと席にいた母によると、赤いコートを着た海賊(の扮装をしたお兄さん)が船内を巡って「一緒に写真を撮りませんか。」と勧誘していたらしい。
流石、海賊船である。
出航してすぐ左に見え始めたこの鳥居を、私はずっと箱根神社のものだと勘違いしていた。
桃源台からそんなに近くに箱根神社があるはずもない。
帰宅してからガイドブックなどで調べ、九頭竜神社の鳥居と見当を付けた。
九頭竜神社は縁結びに霊験あらたかな神社だそうで、友人から「お参りした方がいいですよ。」と言われていた。船上からでもお願いすれば良かったけれど、後の祭りである。
海賊船は、30分くらいで箱根町港に到着した。
そういえば、湖であっても「港」と呼ぶらしい。芦ノ湖では「桃源台港」「箱根町港」「元箱根港」と全て「港」と呼んでいたように思う。
箱根町港で10分くらい停まっていた間、箱根関所跡にたくさんの人が入っていき、出てくるのが見えた。
やはり定番かつ人気の観光スポットなのだろう。
私たちはそのまま元箱根港まで行き、下船した。
元箱根港にはホテルの送迎のバスが来る筈だ。まだ16時30分くらいだったので、箱根神社にお参りし、そのまま山のホテルまで歩くことにした。
湖畔に沿って10分も歩かないうちに箱根神社に到着する。
箱根神社といえば、やはり湖上に立つ平和の鳥居である。
お参り前にくぐらなくてはと思って湖畔まで階段を降りたけれど、鳥居をくぐるには水中に入らなくてはならないらしい。
宮島とは違って潮の満ち引きはないし、最初からくぐることは予定していないようだ。
矢立の杉と名付けられた立派な杉の木の横を通り、鳥居を二つくぐりつつ階段を上がり、本殿に向かう。
元箱根港近くにある一の鳥居から考えると、もの凄く長い参道ということになる。
本殿の周りは特に、湖畔にあるのに開けた感じのしない、不思議な神社さんである。
お隣に九頭竜神社の新宮がお祀りされていて、そちらにもお参りする。こちらの境内にある龍神水は、口に含むと一切を浄化してくださる有り難いお水だそうだ。少しだけいただいた。
帰りは宝物殿の方から階段ではなくゆるやかな坂道を下る。
箱根登山電車の辺りでは茶色くカラカラに枯れていた紫陽花も、芦の湖畔まで来るとまだ蕾も残っている。品種が違うのかも知れない。
坂を下りきったところに、「けけら木」が安置されていた。
「けけら木」は、芦ノ湖の湖底に沈んでいた化石化した木で、昔は伊豆・駿河・相模の三国の国境とされていたそうだ。
それが2007年の台風で湖面に浮かんで来たため、箱根神社に遷したという。
再び湖畔に降り、石畳のような少し暗い散歩道を歩いて、山のホテルへ向かった。
17時30分くらいに到着し、チェックインする。箱根湯本駅で頼んだ荷物を受け取り、お部屋に入った。
フローリングの床の、落ち着いたお部屋である。1階だったので芦ノ湖が見えないのが残念だ。
夕食の予約は直接電話でしてくださいとフロントで言われていた。早速電話すると、「18時30分からは一杯ですが、18時15分からならテーブルがあと1つ空いています。」というお返事で、その時間で洋食をお願いした。
母は相当にお腹が空いていたらしい。「甘いものが欲しい。」と言う。どこかで何か調達しておけば良かった。黒玉子しか持っていない。
母は、「今日はおやつにゆで卵しか食べていないからだわ。」と言うけれど、お昼にごはんをお茶碗に半分くらいも残していたせいだと思う。
ハーブで香りをつけたグリーンティのティーバッグが用意されていて、それを飲んでひと休みしたら、もう夕食の時間になった。
いただいてきたメニューと私の記憶によると、今夜のコースはこんな感じである。
アミューズ 鶏肉とキノコのテリーヌ
前菜 穴子と十五穀米のマリアージュ 夏野菜の彩りを添えて
スープ ジャガイモのポタージュスープ
メイン 仔牛の香草パン粉焼き ソースボロネーズ または
真鯛のバプール セロリの香る白ワインとバターのソース
デザート オレンジのコンポートとカシスのシャーベット
コーヒー または 紅茶
メインはお肉とお魚から選べ、母はお魚にしていた。
お魚はセロリのソースだったので、私には絶対に食べられないと断念した。サーブの方は「苦手な食材などございましたら。」と言ってくれたけれど、ここで「セロリが苦手です」と言われても、レストランとしても困るに違いない。
メインに合わせ、母は白ワインを、私は赤ワインをグラスでいただき、ほわーんとなった。
かなりゆっくりといただいたようで、ギフトショップを少し覗いて部屋に戻ったら、もう20時を回っていた。
つい、テレビで北京オリンピックを見てしまう。
卓球の福原愛選手も、女子ソフトボール準決勝の対オーストラリア戦も、野球の予選の対アメリカ戦も、いい試合というか、手に汗握る試合をしていて目が離せない。
野球が一段落したところで、温泉に入りに行った。
温泉に行く専用エレベータがあって、そちらは浴衣とスリッパで行くことができるのが有り難い。
また、バスタオルやタオル、アメニティなども全部大浴場に揃っていて、ほとんど手ぶらで行くことができる。
お風呂に入る度にタオルを替えられるのはかなり贅沢だと思うし、嬉しい。
みんなオリンピックを見ているのかしばらく貸切状態で、のんびりと露天のジャグジーを満喫した。よくよく、ふくらはぎをマッサージする。
後からいらした方は、山のホテルをよく利用されているとおっしゃっていて、陽が落ちた後の薄明るい時間帯に外に出たら、富士山のシルエットが見えたと教えてくださった。
夏は朝と夜にしか富士山を見られないことが多いそうだ。明日の朝は早起きしようと心に決める。
仕上げに、マッサージチェアであまりの痛さに悲鳴を上げつつ全身をほぐした。
22時過ぎに部屋に戻ったら、ちょうど野球が9回を迎えるところだった。
母と二人、お茶を煎れ、黒玉子を夜食代わりにいただきつつテレビに見入る。
23時前に就寝した。
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伊豆の海はやっぱり夏らしさに欠けるような気がずっとしていたので、プロフィール写真を、2008年8月20日から1泊2日で出かけた箱根で撮った写真に変更した。
芦の湖畔の山のホテルに宿泊した朝、ホテルにある展望室に上がってみた。
右手前はホテルの屋根、左の青い湖面はもちろん芦ノ湖で、右奥の方にちょこっと見えているブルーグレイの三角が富士山である。
それにしても、富士山はどうして肉眼で見るとあんなに大きいのに、写真に撮ると途端に小さくなってしまうのだろう。
謎だ。
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箱根から無事に帰ってきた。
「無事に」と言いたくなるくらい、全身、特に足がボロボロである。
爪が痛い。
足の指先が痛い。
ショルダーバッグをかけていた右肩が痛い。
母は、「ふくらはぎが痛い」と昨日の夜から言っている。
やっぱり、昨日も今日も1時間くらいずつ下り坂を中心に歩いたのがいけなかったらしい。
うちの母は「それでも1万歩ちょっとしか歩いていない」と不満そうだった。
でも、なかなか充実した1泊2日の箱根の旅だった。
際どいところで雨に降られなかったのも、雨女の私としてはポイントが高い。
また、次回はもうちょっとゆったりした箱根の旅を楽しみたいと思う。
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